第10話 堀北伊織2

「なにしてんの?」


「え? あっ――いやこれはその……」


 俺は咄嗟に南沢のパンティーから手を離し立ち上がった。


 どうしよ……救いようなさすぎて言い訳の一つも浮かんでこないんだけど。


 この最悪な状況下で最善の行動は? 俺は必死に頭を巡らせるが答えらしいものは見つからない。というか見つかる気がしない。


「ねえ、聞いてんの? 早太郎」


 そんでもって冷気をまとった伊織が考える時間を与えてくれない。これはそう……いわゆる詰みというやつだ。


「ご、ごめん」


 故に謝るしか選択肢がなかった……が、


「なにしてんのって聞いただけなのに、どうして謝んの? いけないことでもしてたの?」


「う……そ、それは……」


 彼女からの指摘に俺はすぐに失敗したと気付かされた。


 冷静に考えればそうだ、伊織の言う通り別に謝ることはなかった。


 しかしそれはただの結果論。結局俺は謝る以外の選択肢を生みだせなかっただろう。


 なにせ俺と南沢は時と場所を選んでなかったのだから。


 この世に不純異性交遊という言葉がある通り、さっきまでの行為に対し是非ぜひを問われれば、多くが正しくないと断じるはずだ。


 そう、なにを隠そう俺自身も正しくないに一票入れる側だ。だからこそ、謝罪が選択肢にあったのだ。


「それは……なに?」


 そしてそれは伊織も一緒、いや俺なんかよりも厳しい。『不純異性交遊許すまじ! 見つけ次第即刻処刑!』なんて自分の中に掲げててもおかしくない。


 そもそもの話、俺が南沢のパンティーを下ろそうとしていた光景自体が答えなんだ。エッチなことしてます! って解答以外当てはまらないあの光景が。


 伊織だってわかってるはず。なのに知らん振りしている……まぁ考えてることはなんとなくわかる。俺の口から言わせた後に、説教垂れるつもりなんだろう……説教で済むかな?


 ヤバいどうしよ、物凄く不安になってきちゃった。まさかとは思うけど、ち〇ち〇切り落とされたりよかしないよね?


「黙られてもわかんないんだけど」


 伊織の底冷えするような声と射るような視線を受け、俺は逃げ出したい衝動に駆られる。


 そうだ! あの扉を蹴破けやぶって屋上に出よう! そしてフェンスを乗り越えて鳥になろう! 今の俺ならきっと――不可能を可能にすることができるはずだッ!


「はぁ……興が冷めたわ。堀北さんは放っておいて行きましょ? 速水君」


 現実から目を背け空へ羽ばたこうとした俺に、救いの手を差し伸べてくれたのは南沢だった。


 伊織に背を向ける形で割って入ってきた彼女は、つまらなそうな顔を俺に向けている。


「ちょっと! 邪魔しないでよ!」


「あら、邪魔してきたのは堀北さんのほうだと思うけど?」


 南沢は顔半分だけ振り返らせ、伊織に向かって吐き捨てるように言った。


「は? 私がなんの邪魔したって言うの?」


 怪訝な表情した伊織が苛立たし気に聞き返すと、南沢はあおるように微笑んだ。


「くどいわ。あなた、本当はわかってるんでしょう? 私と速水君がなにをしていたか」


「は、はぁ? い、意味わかんないんだけど……ていうか、わからないから聞いてるんですけど」


「あらそう、じゃあいいわ。おこちゃまのあなたに特別に教えてあげる」


 下唇に人差し指を当て扇情的なポーズを取った南沢は、空いてる方の手で俺の右手首を掴んできた。


「お、おいなにすん――」


「――私と速水君はこういうことして楽しんでたの」


 もみゅ。


 俺が言い切るよりも先に南沢は動いた。


「な……なに……やってるのよ」


 伊織は狼狽うろたえたような声を漏らす。が、今の俺に気にかけてやれるほどの余裕はない。


 や、や、や…………やわい。

 

 頭の中は柔いで一杯。俺の右手は――南沢のおっ◯いをわし掴みしていた。

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