第5話 休み時間2 【1】

『屋上入り口前の踊り場に来て』


 休み時間に入ってすぐ、南沢は俺の耳元でそうささやき教室を出ていった。


 もしかして、さっきの続きを? だとしたらセンス良すぎだぜ南沢…………屋上入り口前とか想像しただけで――。


 馬鹿ヤローッ! と、俺は自分の頬を思いっきり引っ叩いた。


 なに当たり前のように抜いてもらおうとしてんだ俺はッ! 欲を満たすよりも先に確認すべきことがあるだろッ!


 なにを考え、どうしてあんな行為を……その辺のことを彼女から聞きださなければならない。


 そう、これは南沢の真意を知る為であって――決してッ! いかがわしい展開を望んでるとかじゃあないのであしからずッ!


 誰に言い聞かせるわけでもないのに心の中でそう弁明した俺は、先に向かった南沢の後に続くべく席を立った。


――――――――――――。


 階段を上っていくと、屋上へと繋がる扉にもたれかかる南沢が目に入った。


 彼女も俺の存在に気付いたのだろう。すっとまぶたを開いた南沢は、瞳を僅かに動かし俺を捉える。


 俺は彼女から少し離れた位置で足を止めた。


「こんなとこに呼び出して、俺になんのよう?」


 俺が訊ねると、南沢は小悪魔のような笑みを浮かべた。


「わかってるくせに――」


「え? ――あ、ちょ、なになになにッ⁉」


 突然、早足で間合いを詰めてきた南沢に俺は成すすべもなく、あっさり壁際まで追い詰められる。


 ち、近い!


 吐息がかかりそうなくらいの位置に南沢の顔が。それに恐らく故意だろうが、やたら体をくっつけてくる。


「あの、南沢さん? ちょっと窮屈きゅうくつなんで、離れてくれませんかね?」


「噓……本当は嬉しいんでしょ?」


「いや全然まったくこれっぽっちも嬉しくないですが?」


「あらそう? けど――〝こっち〟は正直みたいね」


「ふぁッ⁉」


 足を絡ませてきた南沢は、俺のアソコを色白のふとももで器用にこすってきた。


 ちきしょ、悔しい! 悔しいけどなんかこの雑に扱われてる感じが良いッ!


「ねぇ、どうなの? これでもまだ嬉しくないと強がる気?」


「つ、強がってないし? 全然、平気だし?」


 そう俺が返すと南沢は「ふぅん?」と試すような声を出し、更に強く太ももを押し当ててきた。


「はわッ⁉」


 思わず俺の口から色っぽい声が漏れ出てしまう。


 その反応がさぞ滑稽に映ったのだろうか、南沢は満足げに笑った。


「ふふっ、情けない声出しちゃって……可愛い」


 彼女は俺の脇腹に左手を添え、そのまま上へ、頬の辺りまでもってきた。


「そんな可愛い速水君には特別に〝これ〟を嗅がせてあげる」


 そう言って南沢は左手の人差し指と中指を俺の鼻元に近づけてきた。


 うッ、なんだこの臭いは。


 チーズのようなイカのような臭いに俺が顔をしかめると、南沢はクスッと笑った。


「なんの臭いだと思う?」


「……わかんない」


「そう。まぁ、無理もないわね…………それじゃあ、正解を」


 南沢は手を下げ、スカートのすそをつまんだ。


「速水君が来るまで私――自分の〝あそこ〟をいじってたのよ」


「………………」


 彼女の衝撃的な発言に俺の頭は真っ白になる。


 それでも、理解は遅れてやってくるもので。


 えええええええええええええええええええええええええええええッ⁉


 俺は心中で驚愕の声を上げた。


 つまりはそう、あの臭いは南沢の、その……じょ、女性器のものだったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る