第4話 一周回ることって良くあるよね

「はぁ、一体全体どうしたものか……」


 僕は大きなため息を一つつきながら、その様子をまじまじと眺めていた。

 あぐらをかきながら顎に手を当て悩んでいる僕の姿は、側から見たらまるで戦中に脱糞した徳川家康のようだろう。


「モグモグ。なんだこれ!? こんな美味いもん食ったことないぞ!」


 悪魔くんは左手にスプーンを持ちながら、目にも止まらぬスピードでオムライスを口に運ぶ。

 余程オムライスが美味しかったのか、悪魔くんの真紅の瞳は色鮮やかに輝いていた。


 一方悪魔くんの隣で、右手にスプーンを持ちながら同じくオムライスを食べている人物。

 光る輪っかを頭の上に浮かせている天使にのようなちびっ子もいた。

 とりあえずこいつの名前を天使ちゃんとでも呼ぶとしよう。


「本当だ! これさっきの食べ物よりもおいしいよ」

「当たり前だろ。さっきのは食べ物じゃねえもん」


 コーラ味のポテチとの違いに青碧の瞳を輝かせる天使ちゃん。

 それに対して真顔でツッコミを入れる悪魔くん。

 今すぐにでもこの悪魔くんチビを殴ってやりたいところだが、大人の僕は荒ぶる気持ちを沈めて口を開いた。


「おーい、お二人さん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 僕の呼びかけに2人はオムライスを食べるのを中断する。

 そしてキョトンとした表情でこちらを見てきた。

 クソっ、ちょっと可愛いじゃねえか。

 

 だがこの2人は僕のポテチを勝手に食べた奴らである。

 憎っくき敵なのだぞ。

 「いやいや」と僕は首を思いっきり左右に振って、本心を押さえ込んで冷静な表情を見せた。

 

「あのさぁ、君達一体誰?」

 

 至極真っ当な質問を、僕は2人に投げたのであった。


 *


「紹介しよう! 俺の名前はサタルーク! 地獄から参上してきた!!」


「へー」


 両手を腰に当て堂々と自己紹介してくる自称サタルーク君。

 そんな悪魔くんの紹介を聞いて、僕は目を細めながら適当な返事をする。


「おい! 俺はサタルークだぞ! 少しは驚いたらどうだ人間!」


「いやー、なんと言うか。もう驚きすぎて一周回っちゃったわ。てかサタルークって誰だよ。そんな名前の奴今日初めて聞いたわ」


 僕の棒読み返事が気に食わなかったのか、悪魔くんは必死な様子で僕の右足をポコポコ殴ってきた。

 うん、全然痛くない。

 それにもう今は比較的落ち着いている。

 初回の衝撃は凄まじいものだったが、驚きすぎて逆に驚かなくなってしまった。

 これはあれだ、お腹が空きすぎて逆に空かなくなったのと同じ現象だな。


 そんな悪魔くんの隣で何やら天使ちゃんがモジモジしてたので、僕は天使ちゃんの方に視線をずらした。

 僕と視線があってしまった天使ちゃんは一瞬ビクッと体を震わせる。

 そして恥ずかしそうにしながらゆっくりと口を開いた。


「わ、私の名前はセラフィー。天国からやって来た天使だよ」


「へー」


 肩まで垂らしている透き通った白髪を弄りながら自己紹介してきた自称セラフィーちゃん。

 そんな天使ちゃんの自己紹介にも、悪魔くん同様僕は無表情で返事をした。

 2人の自己紹介を聞いて、僕は一旦深く息を吸って深呼吸を行う。

 深呼吸が終わると、僕は真顔から笑顔にシフトチェンジした。


「へぇ、2人は地獄と天国からやって来たんだね……」

 

 まるで聖人のような笑顔で対応して、そして僕の顔は聖人から般若に変わるのであった。


「ーーってそんな訳あるかぁぁぁぁぁぁ!!」

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