第2話 出会いはポテチと共に

「いててぇ…」


 僕は地面に強打した自分の尻を撫でながら、痛みの余韻に浸っていた。

 ベットが壊れたせいで床は破片だらけである。


 ベットが壊れるということはそうそう起きる現象ではない。

 それこそ暴力的というか、乱暴的にベットに接しない限りは、頑丈に作られたベットが壊れることはないだろう。

 しかしだ、現に今こうしてベットが壊れてしまっている。

 いくら使用してから数年が経つと言っても、日常的にベットを大切に扱っている僕のことだから思い当たる節がな…… くは無かった。


「もしかして……」


 顎に手を当てながら苦い表情で、僕は急いで眠っている過去の記憶を呼び覚ます。

 どんどんフラッシュバックする記憶を頼りに事件の真相を探し求めていると、その光景はまるで写真に映り込んだ幽霊のように日常に潜んでいた。

 

「毎朝のルーティンが…… 原因なのか!?」


 僕は辿り着いた真実を目の当たりにした途端、瞳をかっ開いて素っ頓狂な声を出してしまった。

 こんなことは既に分かっていたはずなのだけども、僕は現実から目を逸らしたかったらしい。

 

 でもよくよく考えてみればあのルーティンがもたらす唯一の悪影響と言えば、ベットにダメージが入ることぐらいだろう。

 まさか僕の唯一の特技がこのような結果をもたらしてしまうとは、ーー実に素晴らしい!!


 いやだって少し考えてみてくれ。

 ベットが壊れたということはそれ相応のダメージが蓄積されたってことになる。


 つまりそれ相応のダメージが蓄積されたってことは、僕の美技が沢山披露されたってことになる。

 ということはーー、ベットが壊れた原因はダメージが蓄積されたのではなく、僕の経験という重みに耐えらなくて壊れたことになるじゃないか。


「ハハっ、ベット君はとうとう僕のスピードについて来れなくなってしまったか。それじゃあ脆い、脆すぎるよ」


 訳の分からないことを言いながら、額に手を当て決めポーズをとっていると、それは扉を貫通して僕の耳までやって来た。


すすむちゃ〜ん。何か大きな音が聞こえたけど大丈夫なのー?」


 マズイ! 音に気がついてがやって来た!


「うん。大丈夫だよママ! ちょっと物を落としちゃっただけ!」


「あらそうなの? 大丈夫なら良かったわ。朝ごはんはもう出来てるから、早くいらっしゃいね〜」


「わかった! 今行くよ!」


 僕が元気よく返事すると、それはゆっくりと階段を降り始めこの場所から遠ざかって行った。

 今のは僕のママ…… じゃなくて母、美奈子の声である。

 さっきベットが壊れた音を聞きつけたのか、この場所の近くまでやって来たらしい。


 いくらあいつと言えども、このベットの悲惨な姿を見たら怒るに違いない。

 なので今こいつをママに見せるわけにはいかないのである。

 なんとか僕の臨機応変な対応でこの場を凌ぎきったが、うん。良くやったぞ、僕。


「それにしてもこれ…… 一体どうしたもんか」


 僕は唇を噛んで腕を組みながら、悩んだ。

 それもそうだろう。

 穴の空いた天井ならまだしも、人一人寝るベットが壊れたとなると、修理するのも一苦労だ。

 ベットをまじまじと見つめながら、てかこれ修理出来んの? と心の中で思ってしまったが、まあ今の時代ググればなんとかなるよな!


「よし! 朝のことは一旦忘れて早くご飯を食べに行くか」

 

 僕は体を左右に一回ずつ捻り、慌ただしかった脳内を綺麗さっぱりリフレッシュした。

 やはり今考えても今すぐ実行に移すことは100パーセント不可能である。

 なので今は何もかも忘れて、いつもの日常を送ろうではないか!


 早速朝ご飯を食べに行こうと、僕が振り向いて扉の方に向かおうとしたときだった。

 それは僕の、漆黒の瞳にくっきりと映り込む。


 僕の目の前には2人の…… 2人? 2匹? まあどちらでも良いがとにかく座っていた。

 1人目は頭に紫色の角を二つ生やし、背中にも同じく紫の小さい翼を生やしている。

 黒い服を身につけている赤い目をした人形? 小人? が大きく開いた口で期間限定味のポテチを頬張っていた。


「なんだこの食いもん。これ食ってる奴は頭おかしいんじゃないか? まるで地獄にいるような気分だぜ」

 

 2人目は頭上に真っ白な輪っかを浮かべ、背中にも白い小さな翼を生やしている。

 純白な服を身につけている青い目をした小人? 人形? が同じくちまちまと期間限定味のポテチを口に運んでいた。


「でもこれ意外にいけるよ。なんかこれ食べてると天国にいる気分になるよ」

 

 ちなみにあの期間限定のポテチはコーラ味のポテチだ。

 コーラかポテチかはっきりしろと思うかもしれないが、意外にあれが美味しい。

 言うなればポテチとコーラを同時に摂取している、いけないことをしているような気分に誘われるのだ。

 

 目の前に座って呑気に会話をしながらポテチを食べる見知らぬ2人。

 僕はそのあまりにも衝撃的で、異常な光景に言葉を荒げる他なかった。

 僕は2人を指差しながら、大声を部屋中に撒き散らす。


「僕の許可なしに僕のポテチを勝手に食べるなぁぁぁぁ!!」

 

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