エピローグ

 そして、数年後――

「姉様、よく似合っております」

「なぜ俺がこんな格好を……」

「皆、姉様のこの格好を望んでおりますゆえ」

 ヘルミナの背は伸び、すっかり皇帝としての威厳がついていた。それでも、彼女は俺を姉と慕ってくれる。

「アヤノお姉ちゃんの準備、できたよー……って、アルお姉ちゃん綺麗……」

 不思議なのは、ミルカの見た目が変わらないことだった。

 本人は気にしているようなので言わないが……

 なんでも『ちびっこしょうぐん』という絵本がメイオベルで刊行されたらしい。

 何度も何度も裏切られても、笑顔を絶やさず祖国へ尽くした幼い戦士の話だ。

 ミルカは気付いていないが、誰がモデルなのかは明白だった。

「ぐすっ、よかったですね。二人とも……」

 あれからエリスは更に錬金術師としての名声と技量を高めていた。

 彼女の誕生が錬金術の歴史を百年は早めたと言われるほどだ。

 だが、邪欲がなくなった綺麗なエリスには商才がなかったようで、城が建つほどの金は結局自分で貯めるしかなかった。

「さぁ、行きましょう。姉様」

 ヘルミナに手を引かれ、花で彩られた道を歩いていく。

 その先には、花嫁衣裳を着たアヤノがいた。

「……って、なんで二人ともこの衣裳なんだ?」

「だって、私だって着たかったんだもん」

「ったく……」

 観衆に目を向ける。そこにはミルカやエリス、レオノーラにクリスタ、アレン、エイミー、そしてミシェルとサミュエル……他にもメイオベル王や、先代魔王夫妻、それに俺の教え子たちにアヤノの親族や友人がこの日のために駆けつけてくれていた。

 アヤノと唇を重ねると、皆が歓声をもって祝ってくれる。

「おめでとう!」

 今でも過去の罪悪感は消えない。俺はそんな言葉をかけられるような人間じゃない。この場から消えてしまいたくなる。きっとこの感覚は一生消えないものなのだろう。でも、隣を見ると、アヤノが微笑んでくれる。

 彼女と一緒なら、俺は前を向いて生きていける。

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くたばれ、ヴィーナス 毒爪マン @Genmai-tea

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