山師と化したエルフ

「なるほど……」

 ことの次第を聞いたエリスはふむと唸る。

「おそらくアルとアヤノの間に婚姻という契約が履行されたということなのでしょうね」

「やっぱり、私たちもう夫婦なんだね!」

 アヤノが引っ付いてくるので、それを剥がす。

「あー」

「そもそも、なんであのがらくたにアヤノが映ったんだ?」

「さぁ?」

 バカみたいな顔でエリスが肩を竦める。

「はぁ?」

「あれは元々私がアヤノを呼び出した際に使った魔道具です。しかし、その後は一切使えなくなっていました。まあ元々偶然できた道具です。何が起こるかわからないのでしょう」

「あのなぁ……」

 前々からちゃっかりしているところはあったが、今はそれを通り越して傲慢な節すら見られる。錬金術師として成功を収めたせいか、少し増長しているようだった。

「そんなことよりアル、この前の手紙転送機、あの技術が認められて商業化されるようですよ! ふふん、どうですか? いつか帝都に豪邸を建ててみせますよ」

 ……これは少しお仕置きが必要かもしれない。

 俺はエリスのとんがり耳を引っ張る。

「い、痛いですアル!」

「アヤノにも生活があるんだぞ。そんな無責任な話があるか!」

 エリスへの説教は夜まで続いた。

「も、もう大丈夫だから。アル」

 アヤノになだめられ、説教をやめる。

「はぁ……反省したか?」

「はい……きっと自在に両方の世界を行き来できる魔道具を作ります」

「あと、俺と約束していた城が建つほどの大金も用意しろ」

 ちゃっかり踏み倒されていた報酬の件もどさくさまぎれに蒸し返す。

「そんな無体な!」

「お前、最近ヘルミナに勲章を授与されたとかですごく儲かっているらしいな。え? なんでもメイオベルにも技術を提供してるとか。俺が知らないと思ったか? 全部ミルカから聞いてるぞ。んで、俺との約束は無視か? おかしいよなぁ?」

「アル、やり口が完全に本職だよ……」

 アヤノが震えているが、知ったことではない。

「あれは、正式な書面での約束ではないので、無効というかなんというか……」

 この期に及んで、エリスは口を尖らせぶつぶつ言っている。

「口約束も約束だろうがっ!」

「ひぃっ」

「時間がかかってもいい。自分の言ったことは実行できる奴になれ。それだけだ」

 俺は椅子に腰かけると、懐から煙草を取り出す。

「だめ。私のお嫁さんなら、煙草を吸ったら」

 しかし、アヤノに煙草をとりあげられてしまう。

「いや、お前の嫁になるつもりは……」

「自分の言ったことは実行できる奴になれ」

 アヤノは俺の口調を真似る。

「くっ……」

「ぶふっ……」

「あ?」

 忍び笑いをしているエリスを睨みつけると、彼女はすぐさま姿勢を正す。

「なんでもありません!」

「まあいい、今すぐにとは言わん。学校が建つほどの大金を用意しろ」

「学校?」

「……間違えた。城が建つほどの大金だ」

「……はい。必ず用意します。アヤノ、あなたを戻すための魔道具も」

 そう答えるエリスの顔からは邪気が抜けていた。

「うん。でもアルと離れるのは嫌だから、自由に行き来できるやつね」

「また大仕事が始まりそうです。でも、人のために働くということを最近していなかったので、目が覚めました。アル、アヤノ、ありがとう」

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