あなたは元気ですか?

 アヤノへ

 この手紙が届いているのかはわからん。ただ、エリスいわく新発明だそうだ。

 この手紙は世界を飛び越え、文字を読めないお前に言葉を伝えるらしい。

 全く眉唾だな。エリスはエルフの森でおかしな薬にでも手を出しているのかもしれん。

 とはいえ、エリスに対するエルフたちの目は友好的なものになって、今では錬金術師を目指すエルフもいるらしい。毎日弟子を取ってくれと言われて辟易しているそうだ。

 ミルカはメイオベルに戻った。今はメイヴィスの屋敷で暮らしている。

 父の足跡を継ぎ、王国の将軍として取り立てられ、一軍を率いている。

 そうそう、アレンやエイミーも無事仕官が叶い、今はミルカの下でひーひー言っているらしい。まあ、あの二人は筋がいいからすぐに軍にも馴染むだろう。

 ヘルミナは皇帝としての責務を日々こなしている。民からの評判も上々だ。

 ただ、やはり遊びたい盛りなのかたまに仕事を抜け出してクリスタに怒られている。

 レオノーラは相変わらず巻き毛だしみょうちきりんな言葉遣いだ。だけど山賊はあれに恐れをなしてあの一帯はすこぶる治安がいい。あれの何が怖いのか全く理解ができないが、彼女と対峙した山賊は恐怖で精神が崩壊するらしい。

 そういえば魔王は最も信頼できるという家臣に王位を譲った。これからは妻と一緒にのんびり過ごして政治には口を出さないとかなんとか。これは図らずもエリスの計画通りになったということだろうか。

 サミュエルはジェフザで頭領をやっている。意外なことにあの穏やかなサミュエルにごろつきはみな従っている。奴もやはり鬼神の弟ということなのだろうか。

 それと、その鬼神だが、なぜか今ヒルスキアにいる。というよりも俺の部屋に入り浸っている。そのことでヘルミナとよく喧嘩していて、とてもうるさい。

 火口に落ちたミシェルだったが、炎の悪魔ビリアムが最後の力を振り絞って彼女を助けたらしい。

 戦闘狂同士、何か通じるものがあったのだろう。

 ビリアムから受け継いだのか、あれからあいつは炎も操れるようになって更に手が付けられなくなった。

 さすがのお前も勝てないんじゃないか?

 まあ俺はと言えば、ヒルスキアで勉強中だ。

 なぜ今更勉強などしているのかというと、学校を開きたいと思っているからだ。

 学校を開き、恵まれない子供たちにも食っていける能力をつけさせたい。

 この話をしたら、ヘルミナとクリスタは喜んでくれた。

 だが、勉強しながらも働かないと住まいはやらないと言われ、城に勤めている。

 結局エリスの言っていた城が建つほどの報酬っていうのは嘘八百だったな。

 常識人のような顔をしてあいつのやっていることが一番怖い。

 まあ、仕事と言ってもヘルミナの守役みたいなものだから、楽なものだし将来子どもの面倒を見るときにこの経験も役に立つだろう。こんなことを言ったらヘルミナに怒られるだろうか?

 お前は何をしている? アヤノ。

 お前は優秀だから、きっと向こうでも食うには困らないだろう。

 もしかしたら、もう家庭を持っているかもな。

 だが、周りの人間には迷惑をかけていないか?

 毎日お前のことを考える時間が必ずある。

 お前と共に過ごしたあの時間は俺にとって財産だ。

 お前はどうしているのだろうか。

 お前も錬金術の勉強をしてたまには連絡くらいしてこい。

 アルより


「これでいいのか?」

 手紙をしたため、エリスに渡す。

「はい。必ずアヤノに届けてみせます」

 エリスは妙な紋様のテーブルの上に手紙を置く。

 そして、彼女が何かを唱えると、手紙は何処かへ消えた。

「やった。成功しましたよ! これが世界を越えて言葉を伝える新発明です。どうですか⁉」

 興奮に顔を紅潮させ、こちらに同意を求めて来る。

「そんなことを言われても、お前が隠しただけかもしれないだろ」

「ぐぬぬ……今に私の発明が正しいことを証明してみます。その時になって後悔しても知りませんよ! とりあえず、この発明が実用化されればまた弟子と勲章が増えます。むふふ」

 エリスは乱暴に扉を閉め、俺の部屋を出ていく。

「おい、このテーブルを持って帰れ!」

 しかし、既に彼女は何処かへ行ってしまっていた。

 エリスの住むエルフの森は帝都から比較的近い。それをいいことに彼女は俺の部屋をがらくた置き場にしていた。

「ったく……」

 やはり一番の曲者はあのエルフなのかもしれない。

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