旅の宝たちに想いを馳せ
「もう行ってしまうのですか。もう少しゆっくりされても……」
サミュエルが名残惜しそうに言う。
「ヘルミナが各国に檄文を飛ばしたみたいだし。ゆっくりはしていられないよ。魔王を倒したらまた来るよ」
「是非そうしてください。またつんでれについて聞かせてくださいね」
「もちろん!」
ミシェルがこちらへやってくる。
「アヤノ、魔王を倒したお前を倒す。だからまたここへ来い」
「望むところだよ!」
「エリス、弟はお前の発明品に夢中だ。気が向いたら指南してやってくれ」
「はい、もちろんです」
「ミルカ、お前はまだまだ強くなる。獣人最強の戦士となって俺と決着をつけよう」
「うん!」
「アル」
「なんだ?」
ミシェルはこちらまで歩いてくると俺の耳元で囁く。
「お前たちのおかげでなにも諦めず生きていた頃を思い出せた。いつかお前を手に入れてみせる」
「ミシェル、あんたとは本当に決着をつけなきゃならなそうね……」
「なんだ、お前はアルの魅力に気付いてほしいのではなかったのか?」
「そうだけど! こういうのはダメなの! ほら行くよ、アル!」
アヤノは俺の腕を引っ張って歩き出す。
振り返ると、ジェフザの民が見送ってくれている。怪しげな薬師も、不愛想な大工も、サミュエルやミシェルもずっと手を振り続けてくれた。
彼らに報いるにはどうすればいいのだろう。
「ねえ、アル」
ふと、アヤノに話しかけられる。
「どうした?」
「絶対に魔王を倒さなきゃね」
「そうだな」
俺もアヤノ同様、この旅で色々なものを手に入れたようだ。
デマリアの北方に跨る険しい山脈を越えると、魔族帝国が見えてくる。
「ここが……」
想像していたものとは異なり、土地自体に変わったところは見受けられない。他国と同じような街道があり、それに連なる村には普通の家々が建っている。
「隠れてください!」
エリスの鋭い声を聞き、一同は草むらに隠れる。
外の様子を見ると、魔族の大軍が移動していた。
「デマリアに向けて進軍しているようですね」
デマリアもヘルミナの檄文に応えたらしい。魔族は国境を越えてデマリア軍を駆逐しようという考えで動いているのだろう。
「あんな大軍、初めて見た……」
アヤノが感心したような声を出す。たしかに、凄まじい規模の軍勢だが……
「しかし、デマリアに対してこれなら帝国やメイオベルにはこれ以上の大軍を出しているのでしょうね」
「すごいね……」
確かに、これだけの兵がいるということは国力も豊かなのだろう。
「感心している場合じゃありません。私たちはそんな国の中枢へ行こうとしているのですよ」
「そうだよね……」
さすがのアヤノも緊張した面持ちだ。
「みんなは大丈夫なのかなぁ」
山脈を見て、アヤノが呟く。
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