帰る場所
「もう行っちゃうのか……」
アレンが肩を落とす。
「助けてくれて、本当にありがとぉ」
アレンの隣にいる眠たげな眼の少女は、たしかエイミーと言っただろうか。
反乱の後始末で皆忙しい中、彼らとメイヴィスは俺たちを見送りに来てくれた。
王は一命をとりとめたものの、未だに意識が戻っていない。
気がかりではあるが、俺たちに出来ることはないし、いつ目覚めるかわからないものを待つ時間の余裕もなかった。
「道中、気を付けてね」
メイヴィスが皆の顔を見渡す。
「ああ、ありがとう」
しかし、まともに返事をしたのは俺だけで、皆、気まずそうに目を逸らす。
中でもミルカは酷く、ずっと顔を伏せたままだった。
そんな彼女を見かねて、メイヴィスはミルカの頭を撫でる。
「あの人はずっと自責の念に苛まれていたわ。本人は隠しているつもりだったみたいだけど、いつも悪夢を見て『ウォード、すまん。不甲斐ない俺を許してくれ』って寝言を言っていたの」
「……」
ミルカは唇を噛む。
「きっとあの人もあなたに止めてほしかったんじゃないかしら。あなたはウォードさんに似ているわ。真っすぐで、お人好しで、ちょっと抜けてて、でも誰よりも正義感が強い。そんなあなたをあの人はウォードさんに重ね合わせていたのよ。きっと最期、あの人は笑っていたでしょうね」
「え、どうしてわかるの?」
ミルカが目を丸くする。
「わかるわ。夫婦ですもの。大方、ウォードさんが天国からバカなことをした自分を殴りに来たとでも思ったんじゃないかしら」
「ジョンおじさん……」
「だからね、ずっと苦しんでいたあの人だけど、最期は救われたんじゃないかしら。本当に勝手だけど、あの人を断罪してくれたのがあなたでよかったわ」
「おばさん……」
ミルカの目に涙が浮かぶ。メイヴィスは彼女を抱きしめる。
「ごめんね。あなたを傷付けて」
メイヴィスの声にも涙が混じっていた。
「うわぁぁん!」
王都にミルカの泣き声が響き渡る。それは、彼女が初めて見せる年相応の感情だった。
「ごめんねみんな、待たせちゃって」
涙に腫れた目を拭いて、ミルカが言う。
「構いませんよ。あなたはアヤノに比べたら全然手がかかりませんから」
「なんで私が攻撃されたのかはわからないけど、ミルカはいい子過ぎるくらいだからこれくらいは全然オッケー、むしろもっとみんなに甘えなさい」
「そういうことだ。皆お前に頼ってほしいと思っている」
「うん、ありがとう」
彼女はようやく笑顔を見せる。
「あの屋敷は守ってみせるから、いつでも帰ってらっしゃい」
メイヴィスはそう言うが、それは過酷な道に思えた。反逆者の妻という汚名を着せられながら、王都に暮らし続けるのだから。
「ありがとう。メイヴィスおばさん」
「よくわからないけど、次来るまでには俺も偉くなってお前たちにうまいもん食わせてやるからよ。また来いよな」
空気を読んで黙っていたアレンが久々に口を開く。
「ああ、出世してエイミーにいいところを見せてやれ」
からかってやると、彼はすぐに顔を赤くする。
「ばっ、ちげーし、こいつはそんなんじゃねえし。俺は出世したらあんたみたいな美人の嫁さんを貰うんだよ」
「えー、私にも美味しいものを食べさせてよー」
エイミーは口を尖らせると、アレンの腕に引っ付く。
「バカヤロー! お前は自分で稼げ!」
「アルさんには敵わないからあ、私は二号さんでいいよ」
「ばか、お前、二号だなんて、不潔だろうがっ」
ある意味で、お似合いの二人だった。
「じゃあな、平和になったらまた来る」
俺たちは彼らに別れを告げると、次なる目的地、デマリアへ向けて歩き出すのだった。
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