エルフの名宰相
「なぜあんな場所に連れて行ったんですの⁉ 陛下の御身を危険に晒してまで……!」
宿屋に戻った俺はレオノーラに詰め寄られていた。
「心配ない。あんなチンピラに後れを取ることはない」
「そういうことを言いたいのではなく……!」
手を振り上げて激高するレオノーラをヘルミナは制する。
「よい、レオノーラ」
「しかし陛下……」
「あの地区には帝国の問題が全て詰まっていた。姉様はそれを教えてくれたのだろう?」
「ああ」
「確かに、ああいう人たちを無くすのが一番かもね」
「そうだな」
アヤノの言葉に頷く。あれをすべて無くすことはできないだろう。だが故郷や、ましてや光を奪われる者は減らすのは悪い考えではないと思う。
「あの男の子、大丈夫かなぁ」
ミルカが心配そうにつぶやく。
「腹いせに殴られるくらいはするかもな」
ああいった手合いはずるがしこく、執念深い。
「そんな……助けにいかないと」
ヘルミナが部屋を出ようとするが俺はそれを止める。
「やめておけ」
「しかし姉様!」
「助けて、あいつの面倒を一生見るのか? 下手に助けたところで何も変わらないぞ」
どんな環境に生まれようと、結局、自力で這い上がるしかない。
「お前には他にやれることがあるはずだ」
「……そうだな。だが、道は見えていても余には力が足りていない」
市場でも似たようなことを言っていたな。ヘルミナが軍人を抑えるには経験も権威も足りていない。
老獪かつ皆に尊敬されていて、信用できる家臣がいればいいのだが……
「そういえば、クリスタ様はご健勝なのでしょうか?」
「クリスタ?」
エリスが出した名前は何処かで聞いたことがあった。
「帝国の黎明期に宰相として帝国に仕えていたエルフの賢者です。様々な改革で帝国の礎を築いた英雄として私たちエルフの中でも尊敬されている方なのですよ。残念ながら先々代皇帝の不興を買い、俗世から距離を置くようになったと聞いていますが……」
「わたくしも聞いたことがありますわ。たしかクリスタ様なら、我が領の山深くに籠っておられるとか。父上が話を伺いに行ったそうですがその時は相手にもされなかったとか……」
エルフの寿命は人間とは比較にならないほど長い。何事もなければ生きていることだろう。それに、帝国の英雄ならばヘルミナの足りないところを埋めてくれるかもしれない。
ヘルミナ自身も同じ考えに思い至ったようで、意を決したように言う。
「軍師クリスタの話は余も聞いたことがある。もし彼女から直接話を聞けるならぜひ聞いてみたい。レオノーラ、案内してもらえまいか」
「ほかならぬ陛下がそう仰るのであれば、喜んで協力させていただきますわ。ただ、道のりはかなり険しく、会えたとしてもかなり気難しいお方と聞き及んでおります」
レオノーラは窓の外、遥か向こうにある山々を見て言う。しかし、ヘルミナに臆した様子は見られなかった。
「構わぬ。それでも余はクリスタに会ってみたい」
「わかりましたわ。ではしっかり準備してから行きましょう」
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