籠に迷い込んだ野鳥たち

 馬を三日ほど走らせると、帝都に到着する。巨大な城から裾のように広がる街並みには、貴族の邸宅が規則正しく立ち並び、博物館や劇場といった文化を象徴する施設も多く見られる。そしてそれらの建物には等しく鷲の紋章をあしらった赤い旗が翻っていた。

「わぁ、こんな都会初めて来たよ……」

 ミルカが感嘆の声をあげる。しかし、その声に応える気にはなれなかった。

 道中に立ち寄った集落はどこも慎ましく生活していた。街をせわしなく駆け回っている亜人種はおそらく奴隷だろう。彼らから吸い上げた富で肥大化していくこの都市に嫌悪感を覚えたからだ。

「ずいぶん悪趣味な街ですね……」

 毒々しい煙を発する錬金術工房や、ひっきりなしに野生動物が運び込まれる魔法研究所を見てエリスは顔をしかめる。

「まったく同意見ですわ」

 レオノーラも複雑そうな顔をする。帝国の歴史に明るいだけに色々思うところがあるのだろう。

 ふと、数人の貴婦人が俺たちの前を通りがかる。彼女たちはこちらを見ると洗練された所作で一礼し去っていった。

「綺麗な人たちだったねー」

「うん……」

 ミルカの言葉にも気のない返事をするアヤノ。

「珍しいな、お前が女に声をかけないなんて」

「なんかそういう気分じゃないなーって、別にあの子たちが悪いわけじゃないんだけど。私はどんなきれいでも籠の鳥より大空を飛んでいる子たちの方が好きかな。貴族の子はきれいだけどどこか不自由そうというか……」

「大空を飛ぶ鳥が好きなら捕まえないでそっとしておいてあげたらどうですか」

「それはそのぅ……言葉のあやというか」

 エリスが半眼で指摘すると、アヤノはもごもごと聞き取れない声で言い訳する。

「あら、もしかしてわたくしもああ見えていて?」

「レオノーラさんは白鳥!優雅に見えてすごく頑張り屋さんなところとか」

「なんだか照れますわね……」

「ミルカは?ミルカは何の鳥?」

「ミルカはツミかな。小っちゃくてもちゃんと力強い鷹」

「鷹なの?やったー」

「エリスはフクロウかな。賢くて、あと結構腹黒いし」

「別に私は聞いていませんよ。あと腹黒いなんて思っていたんですね」

「アルはカワセミ、すごく綺麗なのにちょっと荒っぽいから」

 こいつが鳥を好きなのはわかった。名前を言われても全くピンとこないが。

「あれ、アルはカワセミ知らない?こっちにもいたと思うんだけどなあ」

 アヤノは何やらぶつぶつ言い始める。これはこれで気味が悪いが暗くなられるよりかはましか。

「観光や立ち話はこれくらいにして、今は皇帝に会いに行きましょう」

 エリスの言葉に一同は頷くと、そびえたつ城に向かって歩き始めた。

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