第8話 モンスターふれあい体験
王立モンスター研究所では、モンスターの一般公開も行っています。
ただし、モンスターたちは危険なこともあるので、檻の外からの観覧のみというのが、これまでのスタイルでした。
これがカルタンにとっては不満でした。
「モンスターとふれあいができれば、もっとモンスターへの理解と好感度が向上するのに」
カルタンはバッド主任に提案しました。
「バッド主任。比較的小柄で危険のないモンスターと、研究所の観覧者がふれあえる場を設けましょうよ。テイムしたモンスターなら、観覧者がいじわるをしなければ、危害を加えることはないはずです」
「そうだな、テイム班と合同企画ということで、班長に上げてみるか」
「僕はテイム班に根回しに、アンさんと話をしてきます」
カルタンは、テイム班の事務所に行って、アンにふれあい企画のアイデアを話しました。
「それはいいわね。気性が荒くないモンスターなら、テイムして一般客に公開するのも、それほど危険はないと思うわ。どんなモンスターを出したいの?」
「ホワイトカピバラのもふちゃんは、ぜひ出したいですね。ホワイトカピバラのもふもふ抱っこ体験です。バッド主任は、プチサラマンダーのマンダさんを出して、炎で焼き鳥を焼いて観覧者に振る舞うと言っています」
「あら、楽しそう。バッド主任も捕獲のときはからっきしだけど、飼育になると良いアイデアを出す人なのよね」
テイム班からは、快く協力を得られる算段がつきました。
飼育班の班長である、キクチ班長にはバッド主任が提案に行っていました。
「うーん、趣旨はよいんだけどね。万が一、モンスターが観覧者さんを傷つけた場合の責任を考えると、うかつには開催できないんだよね」
キクチ班長は、ちょっと小太りで汗っかきのおじさんです。
「カルタンやテイム班の方々は、テイムには自信があるようでしたが」
「万が一というのが重要なんだよ」
「免責事項を観覧者さんに事前に了解してもらうというのはいかがでしょうか?」
「それならばいいかもね。万全を期して、免責事項の了解を確認するために、観覧者さんにはサインを書いてもらうようにしなさい。お子さんの場合は、保護者のサインでね」
「わかりました! キクチ班長は、どんなモンスターを出しますか?」
「私かい? うーん、小さいモンスターは君たちにまかせて、私はグレートエレファントを出そうかな。子どもたちにグレートエレファントの餌やりをしてもらおう。グレートエレファントは草食だから、果物を与えればいいし、餌やりなら、檻越しでも楽しめるし、よっぽど危険はないからな。しかも、強さと迫力はモンスターの中でもピカイチの部類だ」
「さすが、キクチ班長ですね!」
バッド主任は、上司をうまくよいしょしました。
こうして、チラシを打って、モンスターふれあい体験を宣伝し、体験日がやってきました。
王立モンスター研究所には、たくさんの親子連れが列を作ってやってきています。
楽しいふれあい体験が始まりました。
ホワイトカピバラのもふもふ抱っこ体験は、老若男女問わずの人気です。プチサラマンダー焼き鳥は、特に少年たちに人気がありました。グレートエレファントの餌やり体験は、家族連れで行列ができています。
「順調そうだな」
もふもふ抱っこ体験の当番を他の職員と交代したカルタンは、一息ついていました。
そこにマリアがやってきました。
「カルタン、大変よ。王女様がお忍びで、このモンスターふれあい体験に来ているそうよ」
「へえ、王女様が? それの何が大変なの?」
「知らないの? まだ10歳だけど、エレナ王女様は気まぐれの無茶振りで有名なのよ。このふれあい体験でもなにか無茶を言われたらと思うと、気が気でないわ」
そこにアンが血相を変えて走ってきました。
「カルタン、研究所長が緊急でお呼びよ!」
「えっ、所長が? いったいなんだろう・・・まさか?」
カルタンが所長のところに行くと、所長が深刻な顔で迎えました。
「カルタン、よく来てくれた。大変なことになった。お忍びでふれあい体験に来ていたエレナ王女様が、この企画をたいそう気に入られてな・・・自分だけの特別メニューをすぐさま用意しろと言うのだ。しかも、自分はもう大人だから、子供だましのメニューではなく、モンスターの恐ろしさがわかるスリリングなメニューにしろと言うのだ」
「10歳なのに、大人って・・・」
「あいにく、ふれあい体験が盛況で人手が足りない。エレナ王女様の対応を、飼育班でありながらテイムもできる君に一任する。うまくやってくれたまえ」
「うわぁ、なんか責任重大っぽい。嫌だなぁ・・・」
カルタンは、王女様が待つ応接室へ向かいました。
「はじめまして、エレナ王女様。飼育員のカルタンと申します。今日は、ふれあい体験にお越しいただきまして、まことにありがとうございます」
「ふん、あなたがふれあい体験を企画した飼育員ね。ホワイトカピバラのもふもふ抱っこ体験はなかなか気持ちよかったわ。でも、それだけでは、普通の動物園と変わらないわ! もっとモンスターならではの恐ろしさを体験できるメニューを、私は所望するわ」
「はい、即席になりますので、ご期待に沿えるかどうかわかりませんが、精一杯対応させていただきます」
「いったいどんなメニューを用意してくれるのかしら?」
「えー、企画段階ではアイデアが上がったのですが、スリリングすぎるということでボツになった企画がいくつかあります。そちらからピックアップして体験していただこうと思いますが、よろしいでしょうか?」
「スリリングすぎてお蔵入りになった企画ね・・・望むところだわ! それにして頂戴」
「あとで泣いても知りませんけど、本当に大丈夫ですか?」
「この王女エレナの言葉に二言はないわ!」
「では、ひとつめは・・・キングコングと腕相撲ゲーム!」
「キングコングというと、普通のゴリラの10倍もの力を持つという、ゴリラの中のゴリラ、ゴリラの王様ね?」
「そうです。さすがエレナ王女様、お詳しい。そのキングコングと腕相撲をして、勝ったら金一封という企画だったのですが、お金が出るのは不謹慎だろうということでボツになりました」
「・・・でも、さすがにキングコングに力で勝てるとは思えないわね」
「ですので、ハンデ戦にしようと思います。キングコングは小指一本、対して、エレナ王女様は全身を使ってOKということにしましょう」
「ふっ、飼育員カルタン・・・私を10歳だと思ってなめているのね。いいわ、それで私が勝ったら、金一封の代わりに、ホワイトカピバラをもらっていくわよ」
「わかりました・・・では、飼育室に行きましょう」
カルタンは、エレナ王女様を案内して飼育室に向かいます。そして、エレナ王女様を少し待たせて、キングコングの金さんとテイムの杖で話をします。
「小指一本で、最初ぎりぎり負けそうなふりをして、それから優しく倒してあげてくださいよ。明日のデザートに、金さんの好きなメロン、一玉まるごと出しますから」
「しかたないウホ。メロンのためだウホ」
金さんとエレナ王女様が、レディの構えを取りました。金さんは、肘から先だけで、エレナ王女様の身長と同じぐらいの大きさがあります。傍目には、檻の隙間から腕だけ出したキングコングに、王女様が抱きついているかのように見えます。
「では、位置について。レディ、ゴー!」
エレナ王女様がふんばります。金さんの腕がひっぱられて、床につきそうになりました。しかし、そこからぴくりとも動きません。
カルタンが金さんに目配せしました。
すると、一転して、金さんの腕が持ち上がり、王女様は反対側にひっくり返されて、2回転しました。カルタンが王女様に駆け寄ります。
「大丈夫ですか? 王女様」
「だ、大丈夫よ、これぐらい・・・」
起き上がったエレナ王女様はちょっと青ざめています。
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