第7話 シャルルの実力

 王立モンスター研究所では、モンスターの駆除依頼も若干ながら引き受けています。


 と言っても、冒険者たちに討伐を依頼するような強力なモンスターではなく、冒険者たちが嫌がるような小物のモンスターを、飼育モンスターの餌確保も含めて、捕獲したり駆除したりしている程度です。


 ちょうど、王都の地下水路で、体長60cmほどの大ネズミが繁殖して困っているとのことで、王立モンスター研究所の捕獲班が、駆除に駆り出されることになりました。


「今回は、生き餌捕獲じゃないから、実弾を使うわ」


 マリアが言うには、実弾のほうが、弾代が安いそうです。


「大ネズミは弱いから、俺も参加するぞ。サンダー投網で一網打尽だ」


 久々にバッド主任がやる気を見せています。


「シャルルは初参戦だねぇ。ネズミ退治はお手の物なんじゃないの」


「まかせておいてくれだにゃん」


 カルタンは、ピコリンハンマーを装備し、スネークバイトを用意しました。スネークバイトは、至近距離で放てば、据え置き型の罠としてのみならず、積極的に敵を攻撃するのにも使える優れた魔道具なのです。


 今回は、捕獲班班長のメザト班長も参加です。メザト班長もマリアと同じく銃使いであり、暗視スコープ付きのライフル銃を持ってきています。普段はぼんやりしているけど、銃を持つと人が変わるという噂です。


 他にも、捕獲班のメンバーが3人参加しています。


 今日一日で地下水路を端から探索していき、遭遇した大ネズミを片っ端から駆除していくミッションです。


 メンバーは2人一組に分かれて、地下水路に入っていきました。カルタンはシャルルとチームです。内部は暗いので、魔法のランタンで照らしていきます。


「ご主人さま、前方にねずみがいるにゃん。さっそく攻撃するにゃん」


 シャルルが空中で前足を振ると、前方に魔法のかまいたちが発生し、暗がりにいるネズミを切り裂いていきました。小さくネズミの断末魔が水路に響きます。


「吾輩がネズミを倒して進んでいくから、ご主人さまは、ネズミを拾いながら付いてくるにゃん」


 そう言うと、シャルルの姿が消えました。


「あれ、シャルル、どこに行った?」


「魔法で姿と足音を消しただけにゃん。心配しないでネズミを拾っていくにゃん」


 カルタンがゆっくりと歩いていくと、水路の途中に、倒れたネズミが落ちています。カルタンは、それを拾っては、マジックバッグに収納していく簡単なお仕事になってしまいました。


 一方、メザト班長も順調に駆除を進めていました。


 メザト班長は生体感知の円盤でネズミの大雑把な位置を把握し、暗視スコープを使ったライフル銃の一撃で確実に一匹ずつ駆除していきます。メザト班長のパートナーの職員も、ほとんどネズミ拾いに徹することになってしまいました。


 問題は、マリアとバッド主任のチームでした。


 マリアはメザト班長と同じように索敵と狙撃を繰り返すつもりだったのに、バッド主任がサンダー投網をむやみに投げて音を立てるために、ネズミが逃げていってしまうのです。


「ちょっと、バッド主任! うるさくて邪魔なのよ! 私が狙撃したネズミを拾ってくれるだけでいいんだから、投網を持ってうろちょろしないでくれない?」


「せっかく久々に投網を使えるっていうのに・・・」


「さっきから、一匹も捕まえてないじゃない! 投網の射程距離まで、音に敏感な大ネズミが近づけさせてくれるわけがないでしょう」


「しゅーん」


 こうして、バッド主任の得意のサンダー投網はまたも不発に終わったのでした。


 場所を戻して、カルタン&シャルル・チーム。


 半日4時間で60匹もの大ネズミを駆除しています。


 二人は、お昼休憩を取ることにしました。一度、地下水路から出て、昼ごはんにします。


「シャルルは魔法が使えたんだね」


「かまいたちの魔法と、隠密の魔法だけなのにゃん」


「それでもすごいよ。僕が使えるのは眠りの魔法だけさ」


「人間は、色々と武器や魔道具を持っているから、強いのにゃん」


「あと半日だけど、この調子で終わるのかな?」


「普通の個体は、あらかた狩り尽くしたのにゃん。午後は、ボス級を狙うにゃん」


「大ネズミのボスがいるのかい?」


「5匹ぐらい気配を感じたにゃん」


「強いのかな?」


「大きさは、1.2mぐらいにゃん。吾輩のかまいたちでも一発では仕留められないにゃん。ご主人さまの魔道具を使うにゃん」


 食事を終えたカルタンとシャルルは、再び、地下水路に入りました。


「ご主人さま、その曲がり角の向こうに大物が潜んでいるにゃん。スネークバイトという魔道具を投げるにゃんよ」


 カルタンは言われたとおり、スネークバイトを投げました。スネークバイトは、水路を奥へと滑っていき、角を曲がっていきました。


「むっ、食いついたにゃん。行くのにゃん」


 角を曲がると、スネークバイトに噛みつかれて麻痺した巨大な大ネズミが倒れていました。


「止めを刺すのにゃん」


 シャルルはそう言うと、ボス級大ネズミの首に、かまいたちを集中砲火して、首を切りました。


「曲がり角の向こうのモンスターがわかるのは魔法じゃないの?」


「これは猫の勘にゃん」


 その頃、メザト班長も昼休憩を終え、生体感知の魔道具で発見していた、ボス級狩りに向かっていました。


 メザト班長は、これまで通り、ライフルによる狙撃で倒すつもりです。バスッ!


 撃ち出された弾丸は、見事に、巨大ネズミの脳天を貫きました。


「今宵のマグナムはキレがいいぜ・・・」


 メザト班長がつぶやきます。夜でもないし、マグナムとはなんのことだかわからないのですが、なんだかかっこいい感じです。銃を持つと人が変わるという噂は本当だったようです。


 メザト班長の狙撃の腕の前では、体が大きかろうが小さかろうが、関係ないのでした。


 そして、バッド主任とマリアは・・・


「はぁっ! 午前中4時間で、20匹しか狩れなかったじゃない! もうバッド主任はいるだけ邪魔なので、ここで留守番しててください!」


 昼休憩で、バッド主任が留守番を言いつけられていました。


「そ、そんなぁ、俺にも活躍の機会をくれよぉ」


「バッド主任は、飼育をがんばればいいんです」


 そうして、マリアは一人で地下水路に潜っていきました。


 午後からのマリアは、一転して、駆除のペースを上げていきました。


 5分に一匹のペースで、ネズミを狙撃していきます。ただし、ボス級の巨大ネズミは、万が一撃ち損じて距離を詰められた場合に危険なのでスルーしました。


 午後の時間が過ぎて、全員が集まりました。


 現在の成果は、


カルタン&シャルル 60匹 + ボス級5匹

バッド&マリア 55匹

メザト班長 70匹 + ボス級3匹

職員 50匹 + ボス級1匹


 となっていました。


 成果としては十分でしたが、マリアが自分のところで見逃したボス級を駆除したいと言い出しました。


 そこで、マリアとカルタン、シャルルで最後の一仕事に行くこととしました。


「狙撃はまかせるよ。もし一撃で仕留められなかった場合は、僕とシャルルで止めを刺す」


 マリアが巨大な大ネズミを見つけて、狙撃をします。しかし、ヘッドショットに失敗し、巨大ネズミがマリアに向かって襲いかかってきました。


「シャルル、足を狙え」


「はいにゃ」


 シャルルがかまいたちで巨大ネズミの前足を切り裂きます。マリアに辿り着く前に倒れた巨大ネズミの脳天を、カルタンがピコリンハンマーで叩いて昏倒させました。マリアが2射目を使って、頭を撃ち抜き止めを刺します。


「ねえ、お願い。もう一体だけ! もう一体だけチャンスを頂戴!」


 どうしてもヘッドショットで大物を一撃で仕留めたいマリアは、食い下がります。


 大物を取り逃すのも何なので、カルタンは了承し、最後の一匹を狙撃しに行きます。


 最後のボス級を見つけたマリアは、慎重に狙いをつけました。暗視と遠視のスコープで巨大ネズミの頭を覗きます。その目だけが、スコープの中でランランと輝いています。


 バスッ!


 マリアの放った弾丸が、巨大ネズミの眉間を貫きました。


「お見事、マリア」


 ふぅと息を吐いたマリアは、カルタンに笑顔を向けました。

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