第6話 補助要員

「メザト班長、最近、飼育しているモンスターたちの餌のニーズが多様化してきていて、従来の捕獲班の戦力では追いつきません。捕獲活動にも危険が増しています。人員増加はできないものでしょうか?」


 バッド主任とカルタン、マリアが会議で質問しました。


「うーむ、現状は理解しているんだが、何ぶん、予算不足でね。新しい人員を増やすほどの余裕がないんだ。そうだ、カルタンくんは、ビーストテイマーの素質もあるそうじゃないか? カルタンくんがテイムして使役できるモンスターを捕獲してきて、捕獲班の補助要員にするというのはどうかな?」


「なるほど、それはひとつの手ですね」


「では、捕獲班の補助要員とするモンスターの捕獲を命じる。よろしく頼むよ」


 会議から帰ってきたバッド主任、カルタン、マリアは、作戦を相談しはじめました。


「さて、補助要員とは言っても、どんなモンスターをスカウトするかだな」


 バッド主任が考え込むように腕を組みます。


「まず、最低限の戦闘能力が必要だわ。ゴブリン10体ぐらいは相手できるぐらいが望ましいわね。ここの男どもは、ゴブリン1体に及び腰の軟弱者ばかりだからその分を補ってもらわないと」


「ゴブリンは自分も嫌がってたじゃないか・・・。知能の高さも重要だよ。単に戦うだけでなく、殺さずに捕獲する、こちらの作戦を理解できる知能があるモンスターじゃないと」


「エサ代も重要だ。人間よりエサ代がかかるようではだめだからな。できるだけ、少食なモンスターがいい」


「あと問題は、強力なモンスターをテイムするには、こちらも強力なモンスターの生息地に行かないといけないということですね」


「うーむ、カルタンとマリアの二人で行ける最も強力なモンスターが出る地域を選んで、そこで生息するモンスターのうち、知能が高いものを、がんばってテイムしてくるのがベストかな」


「なんで、人員にバッド主任が入ってないんですか・・・」


「いいわよ、カルタン。どうせ、この人、戦力にならないから。ていうか、カルタンの上司だから参加しているけど、本来飼育班であって、捕獲班じゃないしね」


「そ、そうだ。俺は本来、飼育班なんだよ」


「じゃあ、バッド主任の代わりになる、役に立ちそうな罠を見繕いに行こう」


 カルタンは、用具室に向かいました。


「あ、親方。何か、新型の魔道具入りましたか?」


 親方と呼ばれたのは、用具班のナンバー2、ロイド副班長でした。その豪放なキャラクターから、副班長ではなく、親方と呼ばれているのです。


「おう、新型の魔法の罠が入っているぞ」


「どんなものですか?」


「スネークバイト1型って言ってな。地面にセットすると、周囲半径15mを蛇のように動き回り、とおりがかるモンスターに噛み付く。牙にはモンスターの体力を奪い体を麻痺させる薬が塗られているんだ。そして、噛み付いたあとは、別口の探知機と連動して、モンスターを捕まえたことを連絡してくれるというスグレモノだ」


「それはすごい! 捕まえるターゲットが絞れないけど、無差別に捕獲するなら、最高の罠じゃないですか!」


「とりあえず、5本入荷したから、全部持っていきやがれ。今回の特別任務のこと、聞いてるぜ。良いモンスターを捕獲できるといいな」


「ありがとうございます、親方」


 カルタンは、スネークバイト1型を親方から受け取り、捕獲班室に戻りました。


「カルタン、捕獲に向かう地域は、北の魔性の森にしようかと思うんだけど。キラーパンサーみたいな強力なモンスターは出ないけど、ゴブリン程度では歯が立たないモンスターが豊富に生息しているわ」


 マリアが目的地候補を調べていたようです。


「OK。そこにしよう」


 何日かかるかわかりませんでしたが、とりあえず、3日間の猶予を持って、補助要員捕獲作戦がスタートしました。


 カルタンとマリアは、北の魔性の森に到着すると、獣道を見繕って、スネークバイト1型をしかけました。森を歩き回ってモンスターと遭遇戦をするには、周辺のモンスターのレベルが高すぎるため、罠が頼りです。


「マリアは、どんなモンスターが補助要員にいいと思う?」


 カルタンは野営をしながらマリアに聞いてみました。


「私は熊のモンスターがいいと思うわ」


「戦闘力はありそうだけど、エサ代がかさみそうだな。僕は案外、狐ぐらいがいいと思うな。フォレスト・フォックスとか、知能が高いから、テイムしがいがあるよ」


 さて、1日目にスネークバイトにひっかかったモンスターは、ダークスパイダーと、アタックボアでした。


 ダークスパイダーは、巨大な蜘蛛であるため、マリアが生理的に厳しいと言い、カルタンがテイムの杖で話しかけても、ほとんど会話が成立しませんでした。


 アタックボアは猪のモンスターですが、やはり知能が低めで、仲間にするには物足りないものでした。


 これらは、一応、研究目的及び飼育モンスターの餌として、輸送用の檻に入れて持ち帰ります。


 2日目、朝方に二人がスネークバイトの設置場所を調べに行くと、道すがらで、モンスター同士が戦っているのに遭遇しました。


 足元には、罠に足をはさまれて動けなくなった小柄な猫、この罠はスネークバイトではなく、地元のハンターがしかけたもののようです。


 そして、動けない猫を狙うのは、ナインテール・フォックス。長生きして妖怪化した狐のモンスターです。


 さらに、そのナインテール・フォックスに立ちはだかって、動けなくなった猫をもう一匹の猫が守っていました。罠にかかった猫を守りながらの不利な戦いで、すでにかなりの傷を負っています。


「カルタン、どうしよう?」


「・・・」


 カルタンは迷いました。自然のおきては弱肉強食。罠にはまった小柄な猫は、ナインテール・フォックスに襲われ、食べられても、仕方ない運命です。小柄な猫を守るもう一匹の猫は、親猫なのかもしれません。子猫を守るために自らを犠牲にして果てるのもまた運命。


 カルタンは、どうせ運命なら、自分も思い切りこちらの事情をぶつけてやろうと考えました。


「全部捕獲しよう。まず、マリアの狙撃でナインテール・フォックスを倒す。続いて、手負いの猫は子猫を守るために逃げることはないから、簡単に捕まえられる」


「・・・わかったわ!」


 マリアが、ライフルを構えて麻酔弾の射撃体勢を取ります。そして、発射!


 こちらに気づいていなかったナインテール・フォックスの腹部に見事に麻酔弾が命中し、狐が崩れ落ちました。


 カルタンとマリアが、猫たちに近づきます。親猫は逃げる様子を見せません。


 カルタンは、テイムの杖を取り出しました。


「助けてほしいか?」


「吾輩はどうなってもよいにゃ。罠にかかった我が子を助けてくれれば、なんでも言うことを聞くにゃん」


「いいだろう」


 カルタンは、子猫の方を罠からはずし、ポーションを使って傷を治してあげました。罠をしかけた猟師も、まさか猫を狙ってはいなかったでしょうから、問題ないでしょう。


 罠から開放された子猫は、ずざざっと後ずさり、茂みの中に隠れました。


「子猫の世話はいいのかい?」


「あの子も十分大きくなったにゃ。親の手助けもここまでだにゃん」


「では、子猫の恩人として頼みがある。僕のしもべとなって、僕の仕事を手伝ってくれるかな? 仕事の内容は、モンスターの捕獲だよ」


「仰せのままにだにゃん」


 それを聞いたカルタンは、親猫の方にもポーションを使って傷を治してやりました。が、親猫は逃げようとしません。約束を守るようです。


「では、君に名前を与える。そう、シャルルか、シャルロットがいいだろう。メスだろうから、シャルロットがいいかな?」


「吾輩はシャルルがいいにゃん」


「では、シャルルとしよう」


 こうして、カルタンは、化け猫シャルルのテイムに成功したのでした。


 ナインテール・フォックスも研究用に持ち帰ることとし、捕獲任務は完了です。

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