夏の合宿編・第五話 祭り

あれから2日後、準備を手伝ってきた祭り当日。

「三島さん!清司さん!いきましょう!」


なんと、手伝ってくれたお礼にとお祭りに招待してもらった上、食べ物やゲームなかも自由にやって良いという豪華なおまけ付き。


「あー、椎名さんの浴衣姿…可愛いなー。」


いや、ほんと可愛いね。

「珍しく素直に褒めてるよー三島君がー!

ねえねえ椎名さーん!三島がねー!」


やめろっ!!!


「いったい!痛い痛い!!!つねんな!怒るな

!恥ずかしがるなそして俺に当たんないでー!!」


というわけで、我らヒーロー部with吉川会長一行は

お祭りにやってきたのだった。


吉川会長は大丈夫なのか?

そうそう…あのあと、少し面白いことになったんだよ。


☆第五話「祭り」


「明、前々から言っていると思うけど」


新藤先輩のスーパーお説教タイムが始まった。


畳間に背筋を伸ばしてピシッと座る先輩は…なんかこう

武士かな?とか思っちゃうほど凛としていてもう…怖い。


対して、今回問題になってしまった明君はうつむきながらも

ピシッと座っていて。ああ…こういうところは血かなとか思ったり


…なんでいつも以上に独白してるのかって?

空気が張り詰めすぎてて口を挟むこともできないからだよっ!!!

いつも僕のモノローグにツッこんでくる清司も祭りの手伝いで

いないし。

この場にいるのは新藤先輩、椎名さん、明君、小河部長、そして僕、三島である。


明君は事を正直に答えた。

吉川会長が新藤先輩に気があると思ってちょっかいをかけた。

反応が面白いとか。(初めは鈍臭いから弄りがいがあるとか言ってた…素直に話すにしても…吉川会長が不憫である)

で、足を滑らせ落ちそうになった所を先程まで鈍臭いといじっていた会長に助けられたと。


「吉川は…まぁ、あれでも運動神経は悪くない奴だから大丈夫だったが…もしそうではない奴だったらこの程度の怪我では済まなかったんだぞ?お前のいたずらは目に余るものがある。人を傷つけてからでは遅いんだ」


「そうだぞ、俺だって…」

「小河は黙って」

「お、おう…」


小河部長に口出しさせない…だと!?


「あとは、わかっているよね。ちゃんと吉川に謝る事、怪我をした吉川に不自由させない事。破れば私は、明を許さないから。」


怖い…。淡々としゃべるからより怖い。

そして明君と何故か小河部長までもが青い顔をして。

その場はお開きになった。


翌朝。

吉川会長は、かすり傷(しかし、あちこち擦りむいていて見た目凄く痛そう)に、打撲とどうやら足を捻ったらしくヒョコヒョコ歩きで朝の食卓にやってきた。


「おはようございます、吉川会長。具合はどうですか?」

「うえ~痛そう…骨折ったりしたんですか…?」

「あとで包帯変えますね」

次々と話しかける僕たち一年生面子に吉川会長は心配かけて申し訳ない…と言いながら腰掛けようとして少しふらついた。

「昌兄ぃ!」


おお~。明君がすっ飛んできて、吉川会長を支えた。

「あ、ありがとう明君」

「い…いいってことよ!何かあれば俺に言えよ!昌兄ぃ!」


ふむ…どうやら明君は褒められ慣れていないのか…照れてる照れてる。

「なんだか、吉川先輩の騎士みたいですね明くん」


確かに。

お、また照れた。

当分はこのネタでイジれるなあ…。


そして冒頭に戻る…。

僕たちはみんなで祭りに行った。


お杵さんのご厚意で男性陣には甚平、女性陣には浴衣を貸してくれて。

ああー、椎名さんと新藤先輩の浴衣が似合ってるの何の。

合宿に来てよかったー。

「三島が男らしい感想を言うようになってよかったよー」

と、言ってふう…と、ため息。なぜか隣で満足げな清司…。


「張り倒すぞこの野郎」

「みみ三島君?モノローグが声に出ちゃってますよ!?」


「お前達!!!来たか来たかー!!!まあまずはこれを引け!」


いつになくテンション高めな小河部長がずいっと割り箸をよこして来た。

くじ引きだろうか?


「祭りの中盤で肝試し大会があるからその時の組み分けだ!」


僕たち三人は言われるままくじを引いた。…割り箸の先には数字が振られていた。


「肝試し大会直前にパートナーが分かる仕組みだ。その割り箸、無くすなよ?20時にまたここに全員集合だ。それまで自由行動!」


「よっしゃー!なんだか楽しみー!!!っとその前に三島、椎名さん!腹ごしらえしようぜ!」

「いいねー焼きそば食べたい」

「私たこ焼き食べたいです!みんなでそれぞれ買って戻って来ましょうか!」


「吉川、何かほしい物はあるか?」

小河部長が会長に気遣っているなんてなんだか珍しい。

「…君に気遣われるとなんだかへんな気分だな」

「そうか…因みにお前をおぶって宿に連れて帰ったのは俺だけどな」

「ぐ…それは…どうもありがとう…」

吉川会長、顔が引きつってんだけど。

なーんで素直になれないのかなーお互い。

「だああああっ正兄ぃはあっち行ってろ!亜紀姐ぇに変な虫が近寄らないように見てろよ!昌兄ぃの事は俺がやるから!!!」

「おおーそうかー!それは助かる!」

「早く行けっての!!!」



20時。

再び集まった僕たちはいよいよ肝試し大会の相方発表だ。


「みんな割り箸は無くして無いだろうなぁ!今から呼ばれた番号同士がペアになるぞー!」


結果は、

一番手 明君&清司ペア

二番手 三島&椎名ペア

三番手 吉川&新藤ペア

四番手 小河&哀川先生ペア


「え、先生も参加すんの?」

「え?だって面白そうじゃない?」


哀川先生は先程合流した。

先生も浴衣を借りたようで…もう似合うのなんの。

ぶっちゃけ、先生狙いの男の人がちらほら見えるから、大人の男性と並んでも強そうに見える小河部長が近くにいるのが一番いいのかもしれない…。

まあ何かあっても撃退するんだろうけど…ここだけの話、哀川先生…合気道か何かやってたとかでめっちゃ強いらしい。噂でしか聞いてないんだけど。


そんなこんなで肝試し大会スタート。


「じゃあ…よろしくお願いしますね!三島さん」

「うん、よろしく」

さて明君と清司ペアが出発して数分経ったので、僕たちペアもスタートした。

ちなみに脅かし役はこの町の青年会の人たちと小学校の子達なんだとか。

林の奥にあるお稲荷様の前に風車があるのでそれを一本持って帰ってくるのがルールだ。


「けっこう暗いですね…」

「そうだねー…暗いなあ…」

林の中はもちろん街灯なんて一つもなく、光源は僕が持っている懐中電灯のみ。

鳥の鳴き声とかも…視界が限定されると敏感になったり…ねー。

「あ、三島さん、みてください!お稲荷さんってあれじゃないですか?」

「ほんとだ…でも風車が無いような…」

「フ、フハハハハ!!!きたな哀れな子羊?よー」


「「…。」」

かなり棒読みな演技で、全身黒タイツ、出店のなんとかレンジャーだかの仮面を被った変人…もとい…


(…何してんだ、清司っ!)

(あー、あー今三島君の心に直接語りかけry…良かったーさすが三島、我が友よ!普段からモノローグが通じるだけあるなー俺のモノローグも通じるという逆パターンもありなのか!)

(ツッコミどころがありすぎるんだけど、とにかく、何やってんの!?)

(それがよー、さっきこの役をやってた青年会の人を俺が驚いて突き飛ばしちゃってさ

…今、明君が助け呼びに行っててなーその繋ぎ…)

(…なんとまあ…、何やってんだか…ヒーロー部にはバレバレだろそれ…)

(しょうがないじゃん!?じゃあお前がやれよ!なんだよこの役!幽霊ですらねーし!)

(せめて被ってる仮面は戦隊のレッドの奴じゃなくて、敵キャラクターのだと良かったのになー)(いや、実際は敵キャラクターのだったんだけど、壊しちゃってさ…これ明君に借りた)


「三島さん!!!へんな人がっ!!!?」

(ん?椎名さん何言ってんの!?バレてない?)

(ほらー三島!見たかっ!!俺の演技力をっ)

(んなわけないでしょ、椎名さんだけにしか通じねーよ!)


…最早、肝試し大会どころじゃなく。すぐさま椎名さんに種あかし…事情を説明、近くで伸びてた青年会のお兄さんの介抱をしてもらい、明君を待つことに…したんだけど。


「明君…遅くね?」

…あんまり言いたくないけど、人選を間違えたような気がする。明君はこの町でいたずら小僧とかなんとかで名を馳せてたりするんだろ?明君が伝えに行って、すぐに大人達が駆けつけてくれるかな…小河部長や哀川先生に話が行けば…もしくは次のチームの新藤先輩と吉川会長に途中で会っていたら…

「でも明君がさ…この肝試しは青年会のお兄さん達が頑張って企画したものだから中止にしたくないって。だから繋いでくれって言われてさー」

…では尚更、騒ぎにならないように哀川先生を呼びに行ってて時間かかってるとか…かな…なんにせよ…明君が助けを連れてくるまでの間、この場を繋げないと行けないのか…むむむ。



「吉川、歩けるか?無理に参加しなくてよかったんだぞ?」

「ああ、大丈夫だ。明君がずっと手伝ってくれてたおかげで負担もかかってない。明日にはもっとマシに歩けるだろう」

「そうか…、せっかくの合宿だったのにすまなかったな」

「いや、新藤さんが謝ることじゃないし、明君も無事だったし…良かったよ」

「…明は素直になれないところがあって…でも、本当は寂しがりやでそれを誰かに言う事が出来ない…甘え下手な子なんだ。」

「…私は一人っ子でね。なんとなく、明君の気持ち…分かる気がするよ。何か行動して褒められる。私は親に褒められたくて、構って欲しくて、気を引きたくて幼い頃はそんなことばっかり考えていた気がするよ…やり方は違うけど、明君なりのサインなのかもね…どうした?新藤さん」


「いや、思ったより…いろんな事考えてるんだなって」

「さらっとひどいこと言うよね新藤さん」


「ありがとう、吉川。明ともどうかこれからも仲良くしてやってくれ」

「あ、…ああ…」


「ワッハッハーー!!!きたな、哀れな子羊よー!!!」


「「!!!?」」


(おい清司!なんでこのタイミングで飛び出すんだバカやろっ!)

(なんかこう…邪魔したくなった。後悔はしてない!!!)


「…何やってるんだ、三島と清司」


…と、あっさり新藤先輩にバレてたので事情を説明する事に…。

途中、明君が哀川先生と小河部長、そして事情を把握した青年会の人を連れてきてくれて一件落着…となった。

怖かったー…。




「助かったよみんな、それに吉川くんには申し訳ないことしたねぇ…」

「いえ、そんなことは…、楽しく過ごせましたしケガもだいぶ良くなりました。心配をおかけしてすみません」

「明、あんたも挨拶しなさい」


最終日。

お杵さんと明君達が見送ってくれた。

あの後も、明君はしっかり新藤先輩の言いつけを守り吉川会長をサポートしていた。

というか、なんだか明君がやけに懐いているような…

「もう、帰っちゃうんだな…やっぱり、都会っ子には大変だったかー」

心なしか、泣きそうな明君である。

「そうだな、普段出来ないような体験がたくさん出来たよ。ありがとう、明君」

「ほ、ほんとにケガ…大丈夫なのかよ…、ホントにごめんな…」

「もう、大丈夫だよ、…そうだ、今度は明君が私達のところに遊びに来ないかい?」

「俺が?」

「そう、秋…10月に文化祭っていう学校のお祭りがあるんだ。…ここには来てないけど、我らが副会長さんがかなり力を入れているイベントでね…ヒーロー部には彼女から依頼があると思うから、ぜひ助けてやってくれ」


副会長って、有栖先輩のことだよなぁ…なんだか不安…

「うん、わかった、楽しみにしてる…!」


こうして、いろいろあったが、ヒーロー部with吉川会長の、合宿は終わったのであった。



後日…

「あれー?会長ぉー?スマホ見てなににやついてんですかぁー?」

「あ、ああ…合宿であった子と仲良くなってね。たまに連絡しあってるんだ」

「仲良くなった子…!?新藤ちゃんは…!?」

「ん?新藤さんの従兄弟の子だけど…?」


夏休み明けの新学期1日目、あれだけ言ったのに宿題を終わらせていなかった清司に付き合った為、夜遅くまで起きてしまった…眠い……。

「ちょっ!ちょっとちょっと!!!」

あれ?有栖副会長?

「お久しぶりです、どうかしましたか!?」

「ねぇねぇ!合宿で何があったの!?うちの会長!!!スマホでメッセージのやりとりなんかしちゃってて気持ち悪…面白いんだけど!」

嬉々として聞いてきたな…いま「気持ち悪い」って言いかけた?

「…もしかして、明くんかなぁ?」

「明くん…!?」

「新藤先輩と小河部長の従兄弟で小学生の男の子ですよ。いろいろあって仲良くなったんです」

「吉川くん…そっちの気があったのかと思った…いや?あるのか?あるならあるで面白いんだけど…」

「あのー、多分有栖先輩が思っているような事は無くてですね?ちょっと?聞いてます?」

「いやー!無理矢理合宿行かせて大正解だったわー!ありがとね三島くんー!なんにせよ、吉川くんがいろんな人と仲良くなってくれるようになってさー反応が面白いのなんのってねー!また秋頃にヒーロー部には依頼するから、その時はよろしくー!じゃあねー!」


…一方的に話して去って行ってしまった。相変わらずテンションの高いお人である。

そして、秋に何を頼む気なのだろうか。

新学期早々、当分はまだ謎の依頼内容に不安になる…僕、三島なのだった…。


~夏の合宿編・終わり~














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