夏の合宿編・第一話 あれから。

入部するだの、しないだの。

廃部するだの、しないだの…。


桜ヶ丘高校には、こんな校則がある。

「生徒は、必ずなんらかの部活に入部しなければならない」


僕の名前は三島健(みしまけん)。

いたって普通の高校一年生である。

面倒くさい校則があったため、部活探しをしてるところ「ヒーロー部」なる変わった部活動の廃部騒動に巻き込まれるかたち…いや、むしろ巻き込まれに行ったようなかたちで入部に至った。


「…巻き込まれに行った、と自覚はあるんだな…」


…僕のモノローグになぜか相槌をうてるこいつは幼馴染である清司静男(せいじしずお)。名前のように、静かな男であってほしい…と切に願う。


「失礼だな!?…でもさ、結局のところ入部の決め手はなんだったんだ?」


「そんなの…」


面白そうだったからに決まってるじゃないか。


図書館。

「あ、こんにちは、三島さん、清司さん」

いかにも図書委員な彼女は椎名沙織(しいなさおり)さん。

図書委員であり、ヒーロー部の一員でもある。


「今日は放課後、図書委員の会議があるので部活に向かうの遅くなっちゃいます…すみません」


「大丈夫だよ!時間には寛大な部活だし、椎名さんは委員会活動もしてるんだし」

清司がニコニコしながら受け答える。この女の子には甘い奴め。

「そうそう、さっき部活のグループラインにメッセージがきてたような…」

「え、うそ…今?」

「はい、ちょうど三島さんたちが入ってきたんでまだ確認できてないんですけど…」


と言いながら、椎名さんはスマホをチェックする。

僕と清司もスマホを確認した。

アイコンはヒーロー部、部長である「小河正(おごうただし)」の表示だった。


「集合」


めっさ簡潔!


すぐに誰かが反応した。

副部長の新藤亜紀(しんどうあき)さんだ。


「いつだ」



新藤先輩の「いつだ」に対する返答は「とりあえず今すぐ図書館」だった。

都合よく一年生三人組は現地にいた為、二人の到着を待った。


「早いな、みんな」


先に来たのは新藤先輩だった。


「いや、あのラインから30秒とたってませんよ」

「俺たちはたまたまここに来たんで」

「というか、昼休みは毎日来てくださいますよね」


だってねぇ、落ち着くし楽しいんだもんなぁここ。

…いろんな意味で。


さて呼び出した張本人、小河部長がなかなか来ない。

時間はきっちりしてる人なんだけど…


すると、廊下から騒がしいやりとりが聞こえて来た。


「君はっ!!!この前の期末テスト赤点だったじゃないか!三年だぞ僕たちはっ!進路はどうするんだっ!!!」


「ああ!!うるさいな!!!そんなのわかっている!!!なんだ最近…おまえは俺のお母さんか何かか!?」


「君がしっかりしないからだ……いろいろな!!!!私にもいろいろあるんだっ!!!」


生徒会長の吉川昌之(よしかわまさゆき)

と小河部長がなんだかよく聞くと微笑ましくなる内容で怒鳴りあっている。

なまじ二人共、声がでかいのでうるさい。

何事かと人だかりができ始めていた。


「こらぁ!!!廊下は静かにしなさいっ!!!」


こうしてラインで同じく招集がかかったヒーロー部顧問、保健の哀川(あいかわ)

先生のげんこつが二人の頭をクリーンヒットするのだった。



「で、なんの集まりだったのこれは?」


なんだかんだで昼休みが終わってしまったので、結局、椎名さんの委員会会議終了を待って放課後の日の暮れた時間帯に改めて集まった。

哀川先生は小河部長が吉川会長も集まりに呼んだものと勘違いし、まさかの会長まで参加している。

さすがに会長も部長も昼休みのことで時間も経っており、冷静になってしまったので居心地が悪そうであった。…特に会長。

なんだか面白いのでそのままツッコミは入れないでおこう。

「ププ…同意」

だからモノローグにツッコミをいれるな…


「何笑ってんのかしら?そこの二人?」


失礼しましたー…。


「そうそう、二人が喧嘩してややこしくなったんだが」


新藤先輩の目が座っていらっしゃる。話が進まないので早く言え、と目で訴えている。


「哀川先生、その吉川は関係ないのですが」

吉川会長の前では言いたくない事なのだろうか?小河部長が吉川会長の退出を促しにかかった。

「もう乗りかかった船じゃない。なんだか知らないけど彼にも参加してもらいましょう。廊下で大騒ぎした罰で」


あー部長失敗。

吉川会長、…頑張って…。


「あの…私は何をすれば…?」


「おぅ…、で、何すんだっけ?」


そう、哀川先生は結構、ノリはいいが、適当なところがあるサバサバ系の女性だった。

酒飲ましたら手がつけられないタイプではないだろうか。


まぁ、言いづらい空気の中、観念した小河部長はこんな提案を始めた。


「…夏休みに、俺のお祖母様の旅館で合宿をしないか…という提案…なんだが」

と、いうわけで。

田舎にある小河部長のお祖母様がオーナーをされているという、旅館へお手伝いという名の合宿へヒーロー部一同with吉川会長で行くことになった。


「その、どっかのミュージカルだかアイドルユニットみたいな名前……いいな!」

いいんだ!


ちなみに夏休み中は生徒会は大丈夫なのか?

副会長有栖玲(ありすれい)さんと今はその補佐を務めている林優希(はやしゆき)は話を聞くなり、全力で面白がり始めた。

「何その面白展開…いいよいいよー行っておいでよー会長ー!罰だし?」

「会長が戻るまで、むしろ戻らずとも大丈夫なくらい完璧に職務を果たしますのでどうぞ生徒会はお気になさらず、行ってきてください!」


むしろ、林優希に乗っ取られそうで心配である。


というわけでまさかの吉川会長も参加が決まり。

件の旅館へ向かう、ヒーロー部一同with吉川会長、だった。








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