入部編・第5話 我ら、桜ヶ丘高校ヒーロー部!

「三島ぁああああああ!!!」

廊下は走らないー、清司がバタバタ慌ただしく駆け込んできた。

「どうしたの清司、あ、そうだ本の主。見つかったよ。こちら同じ一年の椎名さんー」

「こっちはぶつかった女の子を見つけたんだけど、大変なんだ!!林さんが病院に…っ!」

「はあ!?」

「優希ちゃんが…病院…!?」


病院に駆けつけた僕たちは、さっそく関係者として保健の新任教師である哀川先生に捕まった。


現在、同じ理由でとっ捕まった生徒…僕、三島と清司、椎名さん、小河部長、新藤さん、そして何故か吉川生徒会長と有栖副会長がいた。なんだか嫌な予感がする。


「さて何がどうなってるか、説明してもらいましょーか?」と哀川先生が腕を組む。

何がどうなってるか、説明是非ともお願いしまーす。と僕は内心でつぶやく。

実況、解説は三島が務めさせていただきます。

「先生、今回林ちゃんがこんなことになっちゃったのは小河さんのせいでーす」

小柄な体系を存分に生かしたかわいい仕草付きで有栖副会長が小河部長を指さす。

「先生、彼女の発言はたまに信用が出来ないことがある。全て鵜呑みにはしないでほしい。」

新藤さんは彼女のこういった言動に慣れているのか新任の哀川先生に向かう。

「おお~、新藤ちゃんが有栖に対して?そーんなことを言うなんて珍しい!じゃあ、小河さんに何があったのか、聞いてみるといいんじゃないかな?」


「小河、いったいどうしたってこんなことになった。お前らしくもない。」


普段、元気いっぱいうるさい小河部長がだんまり状態である。僕たちがここに来るまでの間に、せめて新藤さんには事情を説明してたかと思っていたが、どうやらそうじゃないらしい。

小河部長の表情は何かの決意を固めているかのような…そんな固い表情で。

再び、沈黙。

「小河さんが話さないから、有栖から簡単に状況説明をしちゃうよ。…まあ、事はあの狭い廊下で、小河さんと林ちゃんがぶつかったわけだよ。小河さんの手にはバスケットボールがいっぱい。実際は小河さんが抱えていたボールに強くぶつかった林ちゃんはー反動で跳ね返って廊下にビターン!!…ってところかな?有栖はたまたま階段上から見てたんだ」


「そうなのか?小河?」

新藤さんが顔を覗き込む。


「…ああ、間違いない」

「ほーら、有栖、嘘ついてなーいもん!」


「これは…まあ、いくら事故だったとしても女生徒ひとり、意識不明の状態な訳だ。

悪いがヒーロー部は今日から二週間ほど部活動停止処分だ。いいな」

小河部長の表情は固いまま、視線は吉川会長へ向かった。

「小河…」

吉川会長は何かを言いかけたがそれをやめる。視線をそらした。

「ちょっと、先生差し置いて勝手に話を進めるんんじゃ無いわよ!部活動停止処分なんていくら生徒会長でも決定権なんてー」

「それがね~、あるんですよぅ哀川先生。我が桜ヶ丘高校は生徒が主となって部活動等の運営をしてるんです。」

「はっはー、どうやら相当楽な教師生活が送れそうなようねこの学校は」

「そうそう!なので先生は何もご心配せず…我々、生徒会にお任せくださいな」

「わかった…、ヒーロー部は部活動停止処分を受ける…」

いつも大声な小河部長は静かにそう答えた。


「お、おい三島…まずくね?二週間部活動停止って事はヒーロー部、廃部決定じゃ…」

そう、5月いっぱいで部員が5人にならない部活動は廃部とする…そんななか二週間も活動ができないとなると残り日数は1日。これじゃとても…って、まさか。生徒会長どこまで汚いんだ…。

「やっぱりそれが狙いだよなー…かー、きったね!」

「あの…何がどうなって…?」

そうか、人のモノローグ読める系男子の清司に慣れすぎて、椎名さんに全く説明してなかった。

大雑把ではあるが、一通り説明しなきゃいけないよね。

説明を終えると手元に戻ってきた本に目を落とし、椎名さんは小さくつぶやいた。

「そんなことがあったんですね。この本を届けるためにみなさんで…。」



こうして、ヒーロー部は部活動停止となった。

「…ふーん?あんたたち面白い活動してるのね~、先生は気に入っちゃったわ」

「本当ですか…ありがとう、でいいのかな?…小河があんなに気落ちしたのは久しぶりに見た。昔っから腕っ節が強いからケンカに巻き込まれたりすることが多くて…、一度相手を大怪我させたことがあったんだよ…それがまた相手があの吉川で」

まじか…。

「吉川も最近はああだが、その時の怪我で小河が気を病んでしまったのをみて、忘れろ…って言ったんだ。…吉川も本当はいい奴なんだけどな…」

「ふーん、それって…吉川君が小河君にぶつかる時は大抵貴女も絡んでる時だったりしない?」

「…さあ…、そうかも、しれないが…それが何か」


…吉川会長ってやっぱり新藤さんの事好きなんじゃ…そして、小河部長と新藤さんは特に恋仲でもその気もなく普通に幼馴染?からの流れで一緒に居るだけ、と…吉川会長、報われねぇ。

「先生!!優希ちゃん…、林ちゃんが目を覚ましましたっ!」


夕方の生徒会室。

病院から一足先にもどった会長はぼんやりしながら副会長に声をかける。

「有栖。」

「んーなんれすか?会長?」

チェス盤に様々なソフト人形を並べながらせんべいを頬張っていた有栖。

ソフト人形を駒に見立てているようだ。

「今回の件だが…やっぱり…」

「やめまふ?」

チェックメイト手間だったのか、駒を弾こうする手がピタっと止まる。

「やはり、こんな方法で…その、なんだ…」

「キングは会長、貴方です。どうぞご決断を」

有栖は真剣な表情だ。今までの人をおちょくるような雰囲気は消えている。

ある意味、そのおかげで吉川は肩の力を抜くことができた。

「新藤さんへの思いを、こんな方法で通したくない。私は間違っていた…今まで済まなかったな有栖」


ガシャン!!


有栖は文字どうり、チェス盤をひっくり返した。


「あ…有栖?」


「ゲーム終了!はー!ここにきて、有栖の脚本が一からダメになるとは…会長?」

「な…なんだ?」

「よくぞ、決断いたしました。有栖は嬉しいです。有栖が新藤ちゃんに嫌われちゃったのは大きな痛手ですが?そこんとこの責任さえ取ってくれれば有栖に不満はありません!」

「…一番難しい責任取らせようとしてる気がするが」

「私は最初から言ってます。「会長がそう言うなら…」と。」

そして有栖は吉川に続ける。

「会長と一緒に居ると、いつも予想外な事が起こるので飽きないですなー!で、ヒーロー部はどうするんですー?」

「それは…そうだな…」

「有栖にひとつ考えが……ねぇ、そこに隠れて居る男女四人組?でてきなよーバレバレですよぅ」


5月最終日

僕は宣言通り、図書館に通っていた。

「こんにちは、三島さん、清司さん」

椎名さんが受付カウンターから声をかけてきた。

「皆勤賞…狙ってます?」

「だってここ楽しいんだもん、ねぇ清司」

「そうだなぁ!映画もたくさん見れるし…そうだ、…林さんはその後どう?」


椎名さんによると、あの後意外と元気いっぱいに目覚めた林さんはその場で哀川先生に事情を事細かに説明したという。

話を聞いた哀川先生は改めて生徒会の二人とヒーロー部の二人を集めて説明、生徒会長にヒーロー部の活動停止処分の撤回を勧めるが、生徒会長が判断する前に小河部長の方から活動停止処分の撤回を拒否。

理由は「原因は何であれ、女子生徒が病院にまで行っているのだ。ヒーロー部の活動理念に反する」と。


「小河さんて…まじめな人だよなぁ」

「決めた。僕ヒーロー部にー」

「その話!聞かせてもらったわっ!!!!!!」

突然カウンターから元気のいい…林さんが現れた!

「優希ちゃん、今日から復帰したんだね!よかった!」

「林さん元気そうだねー」

「三島君に清司君?だっけ、まあ元はあんた達があの廊下で突っ立ってなければこんなことにならなかったわけよ」

「突っ立ってたのは謝るが、超スピードでぶつかってきたのはあんただろっ?」

「まあ、そんな事は今やどうでもいいわ」

流した。


「今からみんなでヒーロー部に行くわよっ!」

林さんがなぜか僕の胸倉を掴んで宣言した。痛い。

「なんで…いや僕はいくつもりなんだけどさ」

「いや俺も三島と一緒にいくけどさ」

え、来てくれんの?

「わ、私も…話、聞きたいな…って思ってるんだけど、一緒に行ってもいいかな?」

え、椎名さんも?

「みんな異論はないわね!ならばよしっ!じゃあいくわよっ!!!」


生徒会室は各部活動が入部者報告に列を作っていた。


「はーい、次の部活動…最後かな?入ってくださいなー」

「失礼します!!!」


大声の小河部長が生徒会室に入った。

「…小河、あの…」会長が何か言いかけるが

「会長、今はさっさと書類を」

と、副会長モードの有栖さんが制止する。

「あ、ああ。ではヒーロー部、入部者報告を」


「吉川、やったぞ…!」

小河部長は自信満々に在籍者名簿を吉川会長に渡す。


「今年度、ヒーロー部は新しく、一年、清司静男。同じく一年、椎名沙織。そして同じく一年、三島健。以上三名の入部と保健教師の哀川先生が顧問となっていただけることになった!!!」

新生ヒーロー部、全員。勢揃いだ。

「んー!計五人!しかも顧問も就任しちゃってー、これは…会長?」

「…確かに、受理した。ヒーロー部、部活動存続を許可。」

会長は名簿に生徒会の認印をおした。

「…よかった…」

新藤さんが安堵の息をもらした。

「小河…その、なんだ…すまなかったな」

「吉川?」

「いや…その、いろいろ…」

「しかし、これで文句は言わせないぞっ!!吉川!!!」

ガッハッハ…と大声で笑う小河部長…あー、吉川会長の顔がヒクつき始めた。

「静かにしないか…、心配した私が馬鹿だったか…?もういい…!!…あれ、ところで彼女はどうした?てっきり…」

「そうそう、林ちゃんは?」


「私を呼んだかしらっ!?」

林優希がスパーンと、生徒会室の扉を開いてきた。


「というか、林優希、君だけだぞ?まだ入部届けを出してないのは!」

「私、林優希は生徒会に入ることにしたわっ!!!」


ええええええええええ~

「本当に!?君みたいな面白ry…楽しい子が入ってくれるなんてー副会長の有栖は大歓迎だよーー!!!会長だけでも面白いのにさらに林ちゃんってきひひひ…」


ちょっ…有栖さん絶対何か企んでるな…

「吉川会長?何か問題はありますか?」

林さんの強烈なキャラクターに、すでに吉川会長が押されてる。

「い、いや…そもそも、なぜ生徒会を希望するのだ?」


「聞けば、この学校は生徒会がほとんど生徒の活動を取り仕切ってるそうじゃない?」

「まあ、そうだな」

なぜか、新藤さんが答えた。

「という事は…生徒会をしめry…もとい、仕切る事が出来れば私の思うように動かせるって事よね!?」

「直ってねぇ」

清司が睨まれた!めっちゃ怖い。

「私、生徒会に入って次期、生徒会長を目指すわっ!!」


「優希ちゃん、頑張ってね!」

椎名さん、そこ応援しないで…


「というわけで、私は生徒会に入る…という事で、入部規定免除って事よね!」


あとで知ったのだが、生徒会役員は多忙の為、「全校生徒何らかの部に入部する」規則から特別に外れる事ができるそうだ。

というか、生徒会役員ってこうもあっさり入れるのか?

もっとこう…役員選挙的なもので選ばれるのでは?


「この学校、面白い部活動が無いんだもの!…それなら私が生徒会長になって、もっともっと面白い部活動を作っていくわ!…そういう意味ではヒーロー部はなかなか優良物件だったんだけどね…」


「お!そう思うか林君!君には是非入部してもらいたかったなぁ…!!」

「ありがとう、小河さん、でも私内から変えていくことにする…って決めたから…!」


仲良いなこの二人!?

暑苦しさがそっくry

「何か問題でもあるかしら?特にとくにそこの三島君?」


…無いっす。


後で吉川会長に聞いてみたところ「そもそも役員を好きでやるやつがいないので大抵は足りない人員を生徒からの推薦が多かった生徒がやる。私も元は放送部だったし」

だそうだ。

時はまた少し遡るが…。

生徒会室での一幕だ。


「ねぇ、そこに隠れている男女四人組?でてきなよーバレバレですよぅ?」


「ヤッベ!バレてる!?」

「はぁ…清司がうるさいから…」

「俺のせいかよっ!!」

「お二人とも落ち着いて…」

「ほら、バレているようだ、出た出た」


隠れていた…わけでは無いのだが、ヒーロー部の活動休止の撤回を求めに来たものの何となく、入っていける雰囲気ではなかったってだけである。

観念して、清司、椎名さん、新藤さんそして僕の男女四人組は生徒会室にお邪魔した。


「な…新藤さん!?」

恥ずかしいよなー…ご愁傷です吉川会長…。

「くくく…!」

有栖さん、めっちゃ楽しそう…つかこの人、策士だな…


「吉川、さっきの話だが」

ど直球!!?

「…済まなかった、新藤さん。…昔から小河と君が幼馴染である関係が本当に羨ましかった…、嫉妬してしまったんだ…。

素直に言おう、私は昔から君の事が好きだ…っ!」


告ったーーー!!!


「…すまない、吉川。」


しゅ…瞬殺…


「…あはは、そ、そう、だよなぁ…君は小河のことが…」

「?なぜそこで小河の話が出てくる?」

「え、いやだって…昔から君と小河は常に一緒にいるからてっきり私は…」

「小河は私の従兄弟だ。」


ええええええええええええええええっ!!!!!!


この件は有栖さんも知らなかったようで新藤さんを除いた全員の叫びが

夕方の生徒会室にこだましたのだった。


「小河がもうちょっとしっかりしてくれるまで、私は小河のお祖母様に頼まれててな。それまでは、小河のそばでしっかり見張っている…というわけだ」

「その、そのあとは…?」

「?」

「小河が一人前…と言えばいいのか?…とにかく君の言うところのしっかりした、その後に…さっきの話、考えてはくれないだろうか…?」


新藤さんは一瞬、きょとんとした表情になり少し考えた後、ふっと微笑んだ。


「さあて…どうかな ?」



まあ、そんなこんなな流れでヒーロー部は部員5人となった。


「三島ぁ!!!!!!そっち行ったぞっ!!!捕まえろっ」


小河部長の大きな声が響きわたる。


今回の依頼は生徒会と先生達から…校舎になぜか入り込んできちゃった大型犬の捕獲。

「でかっ!!!」


さて、桜ヶ丘高校、ヒーロー部の捕物劇。とくとご覧あれ、あー


「右に曲がっちゃった…そっち行ったよー清司ー」

「もっとテンション上げて言ってくれー!!!ぎゃーこっち来たー!!!」

あ、しまった。清司、犬苦手なんだった。


「あれ静かになった?」


のぞいてみると、椎名さんが普通に大型犬と戯れていた。

「怖かったねーよしよし、いい子いい子」


清司は壁際で震え上がっていた。情けない。

新藤さんが首輪を持って来て大型犬につけた。


「よし、これで一安心かな、よくやった椎名」

「いえ、おばあちゃんがちょうどこの子くらいの大きなわんちゃんを飼っているので慣れてるだけですよ」


「捕まえたか?よくやってくれた!」

「おおー!今回は椎名ちゃんのお手柄だねー!」

遠くから会長と副会長も駆けてくる。


…困った事、手伝ってほしい事、一緒に解決していこう。

それが僕達、新生桜ヶ丘高校ヒーロー部。

まだまだ、始まったばかりだ。


第5話「我ら、桜ヶ丘高校ヒーロー部!」


入部編おしまい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る