入部編・第3話「落し主捜査」

「で、部活はどうするんだよー三島?」


確かに。


「いや、確かに。じゃねーよ!散々見て回ったろ!?そろそろ決めなきゃ、いろいろめんどくせっ!!?」


ん?臭いだと?何がだ失礼な。というか、モノローグに突っ込むなと…


「痛たたた…ちょっと!?こんなところで突っ立たってるから邪魔なのよ!」


おや、なんだか僕がぼんやりしてるあいだに清司に誰かがぶつかってケンカを売ってきた…?


「いや、別にケンカを売りに来たわけじゃねーと思うけどな…いや、ごめんな、怪我してないか?」

「ケンカを売ってんのよ!!!ここで男子生徒二人も突っ立ってたら誰も通れないじゃないのよ!」

「えー売ってるの…、そりゃすまんかった…」


気の強そうな女子だなー…。

あー、行っちゃったー。


「…あれ、あの女子の落し物か?」

威勢のいい女子生徒は、一冊の本を落として行った…


あれ、これは…届けないといけない流れ?

「そういう事はネタバレになるから言わないの」

おまえも人のモノローグを読み上げないの。


第3話 「落し主捜査」


…開始早々、舐めてた。と気づいた僕ら。

何せ、落し物女子はまるで嵐のように去っていった為、全く手がかりが無い。


外見的特徴。ショートカット、細身、身長160センチくらい、おそらく同じ一年…。

以上である。情報求む。


「…見つけんの、無理じゃね?」


図書館の本かと思ったが、どうやら私物のようだ。

タイトルは「memory」と書いている本、著者名がないのがまたなんとも…。



…どうにもうまくいかないので、結局ここにきてしまった。


「すみませーん」


そう、ヒーロー部である。

清司が部室の扉をノックした瞬間、勢いよく開いたので思いっきりぶつかった。痛タタタタ。


「おう、すまんな!今戻ったところで…おお!おまえたちは!新入生!!」

「どうも、実は相談したいことが」


図書館、生徒たちが各々、気ままに過ごす空間。

「お待たせ、椎名ごめんねー!!」

「あ、優希ちゃん!待ってないよ。そっちこそ、忙しかったんじゃない?」

「忙しいっちゃ忙しいんだけど、そっちも図書委員やってんだからさ、そういえば部活決めたの?椎名」

「それが…まだなんだよね…」

「早く決めなよ、そろそろ先生や生徒会がうるさくなってくるはずだから」

「え、先生はともかくどうして生徒会?」

「私が調べたところによると、どうやら生徒会はある部活を潰すことに躍起になってるよーね!」

「そうなんだ…優希ちゃん、あんまり探偵ごっこしてると変に目をつけられるからほどほどにね」

「気になることは徹底的に調べたくなるのよっ!探偵を名乗るなんておこがましい。ま、将来的にはそういう仕事に就きたいとはおもうけど…」


さて、この女の子冒頭で清司にぶつかった子で名前は林優希(ハヤシユキ)。探偵小説好きが高じてとにかく気になった事は徹底的に調べたくなる性分。

そしてもう一人、図書委員会をやっているおとなしい子は#椎名沙織(シイナサオリ)。


「ま、私もまだ部活決めてないんだよねー、なんていうかさ…運動部系は多いんだけど、文化系の部活が極端に少ないのよねこの学校」

「自分だって決めてないじゃない…あ、そうだ優希ちゃん、この間調べてもらった本…何かわかった?」

「そうだ、それをとりあえず返しにきたのよ…骨董屋のおいちゃんにも見てもらったんだけど…ただ気になることを言ってたの、椎名、この本、黒い帽子被った男の子にもらったりした?」

「そう、男の子!帽子被った男の子だった!すごいね優希!…で、本については何かわかったの?」

「それがおいちゃんもそうかそうか…って満足そうに言うだけでわからないって、悔しいけどもうちょっとわかるまでは本をとりあえず返しておこうとって…あれ?ない…!?」

「え、失くしちゃったの!?」

「いや、教室出るまではあったから…もしかして、あいつにぶつかった時に…」

「ちょっ!?優希ちゃんどこ行くの!?」



ヒーロー部に、本の捜査依頼をしてみたっ!

「いや、そんな動画投稿のタイトルみたいに…ってまあいいや…、どうですか?何かわかりそうですか?」


お前も人のモノローグに…ってまあいいや、ヒーロー部副部長の新藤さんは本をパラパラ捲ったりして調べている。

小河部長は別の依頼に出るところだったようで、申し訳なさそうに出て行った。忙しそうだな。

「小河は運動部に大人気だからなぁ、…しかしこの本、図書館のものでも無ければ学級に置いてある備品でも無いし、著者名も無いし。ページ後半は真っ白だし…」


本当だ、そこまでみなかったから気づかなかった…不思議な本だ。

「聞いてまわるのが一番だな、最終手段は、放送部に頼んで落し物呼び出ししてもらうとか…落し主は女の子…くらいしかわからないとなると…まあ、考えてもしょうがないからここは手分けして探すのはどうだろう?」


「助かりますっ、よろしくお願いします!!」


…語尾に「わー新藤さんと一緒に?やったー!」って付きそうなくらい、清司がにやけてる。んー、ここは親友らしく一歩引いてアシストしてやるかー。

「じゃあ、新藤さんと清司はいっしょに探してもらって、僕は図書委員さんに聞き込みしてみるよ。新藤さんはそのぶつかった女の子を見てないわけだし、見た人間は別れて調べた方が効率的じゃない?」


「それもそうだな、じゃあ清司君、一緒に探そう。…もしかしたら本を落とした彼女もぶつかった場所に思い当たって戻ってきてるかもしれないしな」

「はいっ!!了解っす、新藤先輩!」


「確かここでぶつかって…うーん」

林優希は顎に手を当てて考え込む。


「おやぁ?どうしたんだい?新入生」

生徒会副会長の有栖だ。たまたま通りすがった彼女は狭い廊下で真剣な表情で考え込む林優希に興味を持ったようだ。


「今話しかけないでくださいっ!今消えた本について考え…」

「本が消えたっ!?魔法みたいに!?どうやってどうやって?」

「いや、誰も魔法のように消えたとは言ってない…けども、いやまてよ…むしろ誰かがこの私から本を奪ったと考えると…」

「うん?何言ってんの?」

「こうしてはいられないわ!!…もしかしたらここでぶつかってきたあいつが…!?許さないわー!どこにいるのよ出てきなさーい!!」

「あ、新入生ちゃん、ここは走ると危険だよー」


ああ、言わんこっちゃない。

こちらもたまたまやってきた男子生徒…バスケットボールの入った大きなカバンをいくつか持った、小河正にクリーンヒット。

ボールにぶつかったためその勢いで跳ね返り、林優希はそのまま廊下にビターンと…倒れて…動かなくなってしまった。


「え、ウソ、マジで!?大丈夫?ちょっと、新入生ちゃん!?」

「すまん、大丈夫か…おい君!?」


薄れゆく意識の中で、林優希は一言。

「ほ、本…返して…」

と言って、気を失った。



☆第4話へ続く…


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