入部編・第2話「…とは、言ってみたものの…」

「いやー!!!まさか入部希望者が来てくれるとは!!!嬉しい!!俺はひじょーっっに嬉しいぞ!なぁそう思わないか!?新藤!?」


豪快な部長さんに両脇に二人、抱えられる形で件の「ヒーロー部」なる部室についた。


あ、簡単に前回のあらすじを語るとすると、ヒーロー部をとりあえず見学する為にやってきた僕、三島健と隣でぐったりしてる幼馴染・清司静男は他の部室などから遠く離れたヒーロー部の部室に辿り着いたものの誰もいなかったので近くにある生徒会に聞いてみる事に。

すると生徒会室ではそのヒーロー部の部長と副部長、そして生徒会長様が言い争いの真っ最中。

…いつまでたっても話が終わらないと踏んだ僕、三島はとりあえず「見学希望者でーす。どうもどうも」と割り込み、無事にそこから脱出(…というか、無理やり部長さんが終わらせた)現在、ヒーロー部の活動内容を聞こうとしている所なのであったーー


「あらすじサンキューな、お前こういうのは淡々とやってのけるよなー…」


だから、なぜモノローグに突っ込めるんだ清司は。


「ぶ、部長さん、俺は清司静男です。こっちのぱっと見おとなしい系男子は三島健です。」

「あ、先ほどはどうもーぱっと見おとなしい系の三島健です。」


「…さっきの様子からだと全くおとなしい系男子には見えないけどな。」


おお、クールビューティーとはこの人の事を言うのか…と思えるほど、凛とした綺麗な女子生徒。


「さっきはありがとう、ヒーロー部の…いちおう副部長の新藤亜紀(しんどうあき)だ。よろしく」


「いちおうとはなんだっ!!新藤は立派な副部長だぞー!!細かい作業だろうがなんだろうがお手の物だしなっっ!!」


がっははは!!!っと豪快に笑う部長さん。なるほど、豪快な部長にクールな副部長。バランスがいいコンビに見えるような。


「俺の名前は小河正(おごうただし)だ!!これからはよろしく頼むぞ~~!!!」


「あっはは…どうもっす…でも、いちおうまだ見学なんすけどね。」


「そういやそうだったなぁ!!!がっははは!!!つい先走ってしまったな!!いやー新入生が訪ねてくるなんて滅多に無かったからな!!」

「というか、皆無だったな。」

「そうだったか?まぁいい!!!

さて、ヒーロー部とは何をするのか…教えよう!!!」


…清司も煩いタイプだけど、この部長さん、更に上に行く人だなぁ…たまに煩いんじゃ無くて、常に煩い人だ。


大きく息を吸って小河部長は腹に力を入れヒーロー部が何なのかを言い放った。


「人を助けるヒーローになる活動をする部活だっっっ!!!」


「「…はぁ。」」

お、珍しく発言が清司とかぶった。

新藤さんが「やれやれ…」といった様子で手をおでこに当てている。なんだろう、いつも大変なんだろうな、この人止めるの…。

謎の同情を抱いた。


「…小河、説明になってない…」

「む!そうか!?」

「…つまり?だ。ヒーロー部は…その、なんと言うか…これといった内容は無いんだけど、例えば…他の部の助っ人をしたり、ボランティア活動に参加したり…」

「そう!!!それだっっ!!困っている人を助ける部だ!!」


どーん!!!…という効果音でも背中から出てきそうな勢いで部長は言い放った。

清司なんかは、思わず拍手してしまっている。

うーん。


「どうだ!?君たちも是非、我がヒーロー部で活動しないか!?」


「…保留でもいいですか?とりあえず、様子を見たいというか、他のところも見たいので。」


「ああ、もちろん。まだ日はあるし、ゆっくり決めてくれて構わないよ」

「し、しかし新藤!せっかく来てくれた新入生!!ここで帰してしまったら…」

「…三島君に清司君。とりあえず今日は来てくれてありがとう。また顔を出してくれると嬉しい。

今日はもう遅いから帰るといい。

また遊びおいで」


「はい、ありがとうございます。じゃあ今日はこれで失礼します~。…ほら清司、いくよー」

「え、あ、あ…ど、どうもっす!!」


狼狽えた様子の清司を引っ張り部室を出る。少し離れたところでようやく清司が口を開いた。


「って三島っ、こんなあっさり帰ったりしていいのかよ~~?」


「今日は生徒会長のところで時間がかかりすぎちゃったからね~活動する時間は無いでしょー。

それに他の部活もいちおう見てみたいしねー。」


「…お前、けっこうクールだよなぁ。そういうところ…」


3年間の高校生活を大きく左右する部活を決めるのに、即決してしまってはどうなるかわからないじゃあないか。

「目標~とりあえず全部活動を見学する事~、…以外と数無かったでしょ?この学校の部活って。

じゃあ全部活動を見学してから決めてもいいんじゃ無い?」



そんな訳で、僕と清司の全部活動見学ツアーが始まった。


1日目。

前回、スポーツ系はいいやとか言ったが、結局運動部も見て回る事にした。


野球部。

「新入生!!!名前は!?」

「あ、見学の三島です」

「同じく!清司ですっ!うっす!!」

「よし、三島に清司!入部テストを受けるならしっかり走り込んでこいよ!我が桜ヶ丘高校野球部は毎年、甲子園出場を果たしてる強豪だ!」


野球部部長の長い熱血自慢話が始まってしまった…。

「ああ!ヤバイ!…スンマセーン!!そこの人!ボール投げてくれませんか~!!!」


どうやらボールが運動場から外れた所まで飛んで行ってしまったようだ。

たまたま、男子生徒が着地したボールの近くに通りかかったようだ。

「…あれは!小河!!!」

野球部部長は話をやめ、ボールを持った小河…って生徒をって…


「あれ?清司、あの人、昨日のヒーロー部の部長さんじゃない?」

「本当だ!ボール投げて寄越してくるぞ」


小河さんは「じゃあ行くぞ~!」と軽い調子でボールを投げ返してきた。

ちょっとまって、ここだいぶ離れてるのにその調子で投げて届くのか…って。

「と、届いた…」


「ぶ、部長あの人何者なんすか!?ここまでボール遠投できるなんて…」


ボールを受け取った新入部員が野球部部長に問いかける。

遥か彼方の小河さんは「届いたか~?じゃあな~」と、よく通る大きな声で手を振って去って行った。


「…あいつは小河って言ってな…惜しいやつなんだ。あの剛腕、何度も何度も野球部に誘ったのに、ついに来てはくれなかった…。ただ」


「ただ?」


「あいつはヒーロー部という部活を作って、いざという時に助っ人として頼めば来てくれるようになったんだ。助かるよ、野球部だけじゃなく、他の部もやつを欲しがってな。誘いが多すぎて困ったんだろう。ああいう形に収まったおかげで、他の部活とも争わずに済んだが…それでもっ!あいつには入部してもらいたかった…あの才能を燻らせるだけなんてもったい無い!!!」

くぅ~~っと悔しがる野球部部長。

「ふーん。小河さん、やっぱり只者じゃ無さそうだね~」

「うん?なんか言ったか?三島?」

「なーんでもないよー、それより清司、次はどこへ見学に行く?」

「えぇ!?もう終わりかよ!」


バスケ部。


「きゃー!!!新藤さんが試合に出てるわー!!!」


小河部長の次は副部長だ。

男子バスケ部の隣のコートでは女子バスケ部が他校と練習試合をしていた。

女子バスケ部のスタメンがお休みだったのか何なのか、理由はわからないが、試合には何と新藤さんが出ていた。

女子生徒たちが集まって黄色い声援を新藤さんに…なるほど、新藤さん。女子生徒にかなり支持されてるらしい。というかファンクラブでもあるんじゃないかってくらい集まってるな…。


「うっひょー、スッゲー人気っすねー、あの人」

「ああ、ヒーロー部の新藤な。あいつは身長あるし、もともとバスケやってたらしいつーんで、たまに助っ人で入るんだよ。…バスケだけじゃなく何でもできるから他の部活にも助っ人で入るんだけどな~」

男子バスケ部の部員がボソッと教えてくれた。なるほど小河部長だけでなく、新藤副部長も何でもできちゃう人なのか…


「かっけーなぁ~新藤さん!俺の好みのタイプなんだよな~」

「え、そうなの?清司、新藤さんが好みなんだ~へー」

「なんだよその顔は~、身長あってスラッとしたモデルみたいな体型!!美人だし優しいし!!悪いところを見つける方が難しいぜっ!」

「まあね~」



…お察しの読者さんもいるだろう。

そう、この後もどの部活に行ってもなんだかんだでヒーロー部の二人の名前が出てくるのである。

凄い二人なんだなあ。








一方、生徒会室。

生徒会長は窓辺でため息をつく。

部活動の様子をながめて、その中で活躍する二人の存在をいつものように確認する。

「吉川会長ー、またヒーロー部ですかぁー?」

「なんだ、有栖か。そうだ、あの部をどうやったら廃部まで持っていけるか…。」


「5月で終わりますからご心配なく~。有栖におまかせくださいまし~。まずあと3人も入部するなんて~、現時点では考えられないですし~。会長はそんなことより速くこの資料を片付けてくださいな~」


生徒会長、吉川昌之(よしかわまさゆき)はぶつぶつ文句を言いながらも、資料に目を通していく作業に戻った。

その様子を楽しそうに眺める女子生徒ー生徒会副会長の有栖玲(ありすれい)。

「…どうせ会長~、新藤さんを生徒会に誘ったのに断られて~むしゃくしゃしてる~とか、そんな理由でしょう~」

「ギクっ!!…だったら、どうだと言うのだ?」

「ギクって口に出して言わなくても~。面白いな~会長は~。

まずは、5月いっぱい。待ってみましょうよ~クスクス…」


小柄な体には少し大きめなサイズではないだろうか?余った袖で口許を隠すように笑う、副会長の女子生徒を吉川は不安げな様子で見つめるのだった。


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