我ら、桜ヶ丘高校ヒーロー部!

霧海戴樹

入部編・第1話 高校デビューをするつもりは無い

春。

桜の花びらが綺麗に舞い散る4月某日。

そんな季節にぴったりの名前である桜ヶ丘高校に今日から通う事になる。そう、入学式である。


「おーい三島ー!起きてるか~?いやー、俺たちも遂に高校生だぜー!?時が経つのは早いっつーか何つーか…かーっ!!!素敵な出会いがあるといいなあ~!!な!三島!?おい聞いてるのか?もしもーし」


…一方的に話しかけてきたテンション高いがおっさんみたいな絡み方をするこの男は清司静男(せいじしずお)。彼とは小学校からの付き合いで、いわば幼馴染である。

悪いやつでは無いのだか、とにかくよく喋る、たまに煩い。名前の通り清く静かな男であって欲しいと願うのはきっと僕だけでは無いはず…。


清司の紹介を先にしてしまって何だか彼が主役みたいになってしまったが…いや、もうめんどくさいから彼が主役でも個人的にはいいのだけれど…あ、作者が頭を抱えてしまうので素直に自己紹介しようと思う。


僕の名前は三島健(みしまけん)。どこにでもいるフツーの男子高校生。

周りからよくいわれるのは、

「三島くん、起きてる?」

「三島、何か辛いことでもあるのか?」

「三島、悩みがあるなら相談しろよ?」


…と、何だか心配されやすい、そんなフツーの…


「いやいや、それフツーじゃあねーから。反応が乏しいんだよーオメェーはよう!もっとさー、新しい学校!新しい出会い!こうワクワクする出来事が目の前にあるんだからさぁ、楽しそうにしろよな」


…人のモノローグにツッコミを入れないで欲しい。


「そういや、三島、あれはもう決めたか?」


「あれ?…この前、清司がやってた…何だっけドキドキメモリーとか何とかっていうゲームの彼女?」

「ちっげーよ!!つか何でお前が俺のゲームの彼女決めようとしてんだよ!俺に決めさせろよ!!!

…じゃなくて、部活だよ部活!」


「…部活?何それ…そんなものは生き生きした元気溢れる人間がやるものでしょ…僕みたいなローテンションの男がやるものじゃあ無いよ~」


「ローテンション男って自覚はあるんだな…。いや、それがよー!なんでもこの学校、全校生徒必ず何らかの部に入部しなければならないってめんどくせー校則があるわけよ!!」


…え、そんなこと、聞いてない…。


「…いやいや、そんなに気を落とさなくてもいいんじゃね?何も全ての部が体育会系なわけじゃあねーから、テキトーに楽して過ごせそうな部活を探さねーか?と思って」


別に運動が苦手なわけじゃあ無いけど、何というかやる気の問題だ。スポーツ系の部活はもちろん、大会に優勝する事を目標にするだろう。そこまで勝利に執着する心が、果たして俺にあるだろうか?清司には無いだろうけど。

「失礼な奴だな、そういう所なら入ったら入ったでもしかしたらその面白さに目覚めて高みに向かうかもしれねーだろ!」

…だから、何で僕のモノローグに入ってくるんだお前は。


とにかくだ。

そういうわけでスポーツ系は除外。…とりあえず。


「まぁ、俺も特にやりたいもんねーしな…。つーわけでここに一覧表がある!気になった所にとりあえず見学に行ってみよーぜ!」


と、清司が広げたのは桜ヶ丘高校部活動一覧表。

結構な数がある…かと思いきや、意外と無い。

運動部以外だと、吹奏楽部、美術部、マンガ研究部、放送部、演劇部…


「…ヒーロー部?」


聞きなれない部活名が一つ。


「おいおい、何だこれ?しかも在籍者二人って…」


表の下には小さい文字で「新規則」という項目があった。

新規則。今年度より5月までに部活動在籍者が5名満たない部活動は廃部とする。


「ってことは、この部活、今年度…つまり俺たち新入生が最低でも三人入部しなければ廃部って事かぁ!?」


「まぁ、そういうことになるよね。」


「ヒーロー部かあー名前は気になるが、覗いてみよーぜ!もしかすると俺たちがヒーロー部にとってヒーローになっちゃうかもだけどなぁ!」


「僕たち二人が入っても一人足りないけどね」



なんだかんだで、やっぱり気になるので見学に来た僕ら二人。

旧校舎の、一番奥の教室。

ここがヒーロー部の拠点らしいのだが…。


「…離れすぎじゃね?」


そう、他の部活動は全て新校舎に割り当てられているのに、このヒーロー部だけなんだかのけもの扱いである。


「うーん、まずは在籍者の二人に会ってみないとわかんねーよなあ~、嫌われてんのかな?…嫌な性格の奴だったりして…」


あり得る。


「それで二人しかいないとかね。」


ノックしてみる…返事はない。


「いないみたいだねー」

「どうすっかなー、とりあえず二人を探すか…つーか、二人の名前も知らないわけだが。」

「生徒会室に行って会長さんとかに聞けばわかるかな?それか職員室の先生に聞くとか。」

「おー、確かに。ここから近いのは生徒会室だから…そこから攻めるか!!!」


攻めるって。別に喧嘩売りに行くわけじゃ無いけどね。


生徒会室は、ヒーロー部の部室近くの新校舎に続く渡り廊下を進むと目の前にある部屋だった。


近づくと何やら怒鳴り声が聞こえるよーな…。


「だから!何度も言ってるだろう!!!我が部はー」

「人を助ける部活だ、だろう?何度も聞きました、ですが、そんなものが通ると思っているのですか!?他校にヒーロー部などと言うふざけた名前の部活がありますか?無いだろう!!!」

「…他校がどうとか、今は関係無いんじゃ無いのか?二人とも頭に血が上りすぎだ。一度落ち着け」

「新藤さんは口を出さないように!!!これは生徒会長である私とそこのアホな部長の問題です!!!」

「俺は確かにアホかもしれないが、新藤に口を出させないとはどういう事だ!彼女は我が部の副部長だぞ!意見する資格はあるっ!!!」

「そういう事を今話してるわけじゃ無いっっ!!!とにかく、ヒーロー部は即刻、廃部にする!!!これは生徒会長命令だっっ!!!」



うわー何この修羅場。あと「!!!」が多いなこの人たち。


「…おいおい、ヒーロー部、生徒会長怒らせて何やったんだ?しかも廃部にするって…どういう…」


「あのー?すみませーん」


ガラガラっと生徒会室の扉を開ける。横でぎょっとした顔で僕を見る清司。そうそう、いつも突き抜けた行動力の彼を驚かすのが昔から僕の楽しみの一つでもあったんだけどこれはまた別の話で。


とにかく、周りから見ればローテンションで反応の薄い男だと評される僕がこの修羅場にズカズカと入って行ったのだ。そりゃ長年の付き合いである清司だって固まるだろうさ。


しんっと静まり返る生徒会室、ポカンとする生徒会長とどうやらヒーロー部の部長のガタイのいい男子生徒と、先ほど「新藤」と呼ばれていたクールな印象の副部長の女子生徒。


はっと我に返った生徒会長が先に口を開いた。

「新入生かい?名前は?今取り込み中なんだが…何の用だ?」


「あ、初めましてー、三島と言います。こっちは清司」

「…どうも…」


「…三島君に清司君か、で、用は?」

「質問があります。この部活動一覧表の下に、何だっけ?清司読んで」


「え、あ、おう…『新規則。今年度より5月までに部活動在籍者が5名満たない部活動は廃部とする。』」

「って、書いてあるんですよー、という事はそれまでに五人集まればヒーロー部は廃部にならないって認識でよろしいですか?」


「…まぁ、そうなるが…しかし、こんな方向性の見えない部活に人が来るわけ…」

「あ、僕と清司、とりあえず見学希望者ですー。部長さんを探してたんですけどー」


「!?なんだとっ!!!!?」


すると、ヒーロー部の部長がにかっと笑った。

「なんだ、そうだったのかーすまないなー!こんなところまで訪ねてきてもらってー!!!

というわけで今日はここまでだ生徒会長、失礼するぞーなんせ、「入部希望者」が二人も来てくれたんだからなぁ!!!これから説明会をしなくちゃな!!!」


まだ入部するとは言ってないけどねー


「そういうわけだ、生徒会長、私も失礼する」

「し、新藤さん!君はこの前の話、考え直し…」

「ああ、あの件は遠慮する事にした。誘ってくれてありがとう。じゃあな」


「そ、そんな…」



うーん、なんだか大変な事に首を突っ込んだような気がしてきたけど、僕はいたって今までどうり普通に行動しただけだ。ローテンション男が急に動いたぞ~とか、思うかもしれないけど、ローテンションかつ気になる事にはツッコむ。それが僕、三島である。別に高校デビューしようだとかそんな大それた事を考えているわけじゃ無いよ。


…生徒会長のかなり落胆したような顔がチラッと見えた気がしたけど、この豪快なヒーロー部の部長の両脇に僕と清司は抱えられ、強制的に生徒会室を後にしたのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る