第37話/生徒会長選挙②

 我が校では普通科の中に、総合コース、福祉コース、スポーツ科学コース、国際コース、芸術・工芸コース、それぞれのコースがあり、各分野に分かれて学習できるシステムを採っている。しかし、ここ数年は全コースで入学希望者の前年割れが続いていた。


 少子化も少なからず影響しているだろうが、隣接している都市部への学生の流出が大きい。ベッドタウンにある我が校は、山に囲まれた広い敷地にスポーツ・福祉関連の施設が充実している。伸び伸びと学習するには魅力的な立地だった。しかし、交通機関の延線で移動の便が向上すると、学生の流出がはじまった。


 そんな状況で入学希望者が減少している原因の一つとして、校則の厳しさが挙げられる。頭髪や服装に留まらず、定期的な持ち物検査にスマホの制限……、時代遅れの校則が入学希望者の足を遠のかせていた。


 学校としては入学希望者の減少を重く受け止めており、保護者会を含めた会議が何度も行われている。コースの統廃合を視野に入れた動きが目前まで迫っていた。それは、保護者や地元住民としては、進学の選択肢を狭めるだけでなく、遠からず人口減少に繋がる頭の痛い問題だった。コースの廃止はなんとしてでも阻止したい懸念であり、入学希望者の増加のための取り組みが急務となっている。


 校則の緩和が一筋縄でいかないのは、学校側の問題だけではなかった。生徒の中にも、校則を緩和すれば風紀が乱れ、田舎の一高校にちてしまうのではないかと危惧する声が一部から上がっている。


 現生徒会長である本条鈴音も苦戦を強いられていた。一年を掛けて、教職員会議、保護者会と話し合いを続け、やっと校則緩和のお膳立てが整った。しかし、在校生の説得には至らなかった。時間が足りなかったのだ。校則緩和の是非は、次回の生徒会長選挙の結果に委ねられる事となった。


 俺と優子は勝たねばならなかった。それも、できうる限りの圧勝で。鈴音のためにも。この高校のためにも。そして、自らを育んだ地元を守るためにも。優子はそれを恩返しだと言った。




 十月下旬。文化祭、最終日。講堂では熱気に包まれた祭典が締めくくられようとしていた。壇上には三人の生徒会長候補と、それぞれの応援演説者が椅子に腰を下ろしている。生徒会長である鈴音の挨拶の後、最初に登壇したのは優子だった。


「皆さん、こんにちは。一年E組の木崎優子です」

 優子は笑顔で話し始めた。立候補を決めてから何度も練習してきた。鈴音にも手伝ってもらい、改善を繰り返した優子のスピーチは、今までで一番の出来だった。そこには数か月前の引っ込み思案な彼女はもう、いない。その瞳には覚悟が宿っていた。


 優子は校則の緩和と入学希望者増加のための行動、具体的には動画共有サイトを使用した情報発信、などの公約を諭すような口調で雄弁に語った。自らの理想を追うように、優子らしく美しい言葉を紡いでいった。


「……ご清聴、ありがとうございました」

 語り終えた優子は深く頭を下げて、席へ戻った。

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