第34話/嗚呼、夏休み③
俺は亮介と、友人数人とともに出店を回った。日が暮れるとともに、会場は賑やかさを増していく。
「ナンパしようぜぃ」
雰囲気に飲まれ、恐れを忘れた亮介は声高に言った。ナンパ……。今も昔も、俺には縁遠い言葉だ。亮介は、手本を見せてやる、と叫びつつ三人組の浴衣女子へ突撃していった。
「ヘーイ、カーノジョ! 女の子だけでなぁにしてんの?」
それは古典的かつ直情的なナンパだった。まさに直球勝負。亮介らしい。
しかし、振り返った女子に、亮介の身体が固まった。時が止まったかのように、微動だにしない。よく見ると、彼女たちは見知った顔だった。
「亮介……あんたねぇ……」
呆れたように息を吐いたのは、詩織だった。両脇を固めるのは香奈と、それに遥がいた。
「これはこれは、我が校の誇る美人三姉妹がお揃いで……」
身を縮こませた亮介が、小さな声を捻りだした。
「私たちをナンパしようなんて、万年早いわ! って、あれ、中間っちじゃん! ハロー」
詩織は笑顔で手を振っている。
「……ナンパの戦力としては、全体的に国力が足りていないようね……」
香奈は一同を見渡すと、ポツリと呟いた。遥が笑いを
詩織は赤の花紋をあしらった浴衣に、水色の帯が華やかな印象を
「やばば、中間っち、遥の事、見過ぎだよ~」
無意識で凝視してしまっていたようだ。遥が身体を腕で覆い、警戒感を露わにした。
「あぁ、いや、あまりにも綺麗だったもんで。
俺は素直に言い訳した。
「これが、噂の中間、くん? もっと紳士な人だと思ってたけど……」
遥が恐る恐る言った。噂されてんのか……。
「そうだよ。私を助けてくれたんだよねー。その節は、どうも」
人懐こく告げて、詩織はペコリと頭を下げた。
「変態紳士……」
ポツリと香奈が呟く。またも遥が笑いを堪えていた。
「それにしても、鍛えてんの? 夏休み前と別人じゃん」
頭を上げた詩織が、俺の腹筋を突きながら笑った。
「トレーニングしてるんだ。他にすることも無いしな」
自分で言っておいてなんだが、悲しすぎる理由だった。
「へぇー。確かに、いい身体してるね。どんなトレーニング?」
興味津々で身を乗り出した遥の瞳は輝いている。
「ランニングと筋トレ。特に変わったことはしてないよ」
「なに部だっけ?」
「帰宅部」
遥の目が怪訝に変わる。そんな宝の持ち腐れのような目で見るな。
「陸上部へおいでよ。歓迎するよ」
「そういえば宮永さんは陸上部のエースだったね。調子はどう?」
「……え。あぁ……。うん。まぁまぁ、かな……」
遥は言い淀んで、苦笑いで誤魔化した。やっぱり……。記憶の通り、遥はこの頃からスランプに陥り始めているようだった。
「そっか。やっぱり注目されると大変だよね。気が向いたら、陸上部に見学へ行かせてもらうよ」
俺は幸運に感謝していた。夏祭りに誘ってくれた亮介にも。ここで遥と出会えたのは
「あ、そろそろ花火が始まるよ! 行かなくっちゃ」
詩織が朗らかに叫ぶ。
「それじゃ、紳士諸君。また学校でね~」
詩織は手を振り振り、去っていった。遥と香奈もその後に続いた。
「俺も筋トレ、しようかな……」
隣では亮介が羨ましそうに眺めている。
男だらけの花火大会を堪能した俺たちは三々五々、解散した。帰り道、千絵の姿を探したが、見当たらなかった。俺はとぼとぼと家路についた。
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