第十九話:Re:ファッションショー 後編

 それから、二乃にのはこのアパレルショップにある様々な衣服を組み合わせ、試着していった。

 かなり不安があるものの、要望通り、俺の意見もある程度は出している。


「………」


 再び、どうですか?と尋ねるように、二乃は服装を変えた姿で首を傾げた。

 しかしその顔は、何故だか分からないが少し物足りなさそうに眉をしかめている。


 今回の服装は、レモンイエローのシャツに、デニム生地のオーバーオールスカート。

 全体的に少しオーバーサイズな姿だが、そんなカジュアルチックな感じがまた……


「似合ってるな……」


 この言葉に尽きた。


''……ずっと同じ感想ですね。''


 すると、物凄い速度で入力する仕草をした二乃がそのメモの内容を見せてきた。

 先程の不満げな顔は、どうやら俺の感想が1パターンしかなかったかららしい。


 ……だが。


「いや、仕方がないだろ?本当に全部似合っているんだからさ」


 ……そうなのだ。このブティックにある衣服の全てが、二乃に似合っていた。

 今回はカジュアルな感じだったが、他の服装であってもそれは同様、ということである。


 例えば、柔らかそうな生地でできた膝丈の白いワンピースに、その上から桃色のカーディガンを羽織はおるというファッション。

 ワンピースは胸元から腕まで花柄に編まれたレースで、華やかに模様付けされていた。


 それはまさに春と彷彿ほうふつとさせる服装で、亜麻色の髪とのコントラストも絶妙だ。

 全体的に二乃のあどけない要素を存分に引き立てており、結論を言うととても可愛い。


 他には襟刳えりぐりが大きく開いた薄紫色のカットソーと、ボトムスに白いスキニーパンツというファッション。

 カットソーは袖がギャザーに編み込まれており、フリルに似た華やかさを醸し出していた。


 カットソーの露出度と言い、スキニーパンツのせいで目立ってしまう足のラインといい。

 これまでと違ってフェミニンさが強く、そこが清楚な二乃を逆に彩っていた。


 常備しているらしいゴムで一つに纏められた亜麻色の髪も役に立っている。

 限りなく明るい髪色と薄紫のコントラスト、それはもうただただ美しいのだ。


 ──と、こんな感じである。


 服装のタイプにも向き不向きがあると思うのだが、二乃はそれが無かった。

 ……正直、先程から俺の存在って要らないんじゃね?とか思い始めていたりする。


 そんな俺の弁明を聞いて、二乃は再び物凄い速度でスマホを入力し始めた。

 相変わらずの速さだ。俺にはあの指の動きがまともに見ることができない。


''では、かずくんが特に似合う、自分は好き、と感じた服装は何かありませんでしたか?''


 それから見せてきた文面は、そんな内容が記されていた。

 全部似合っていたから特に、というものはないとして、俺が好きなもの、か……うーん。


 合わせて7組ほどの組み合わせを二乃は見せてきたが、思えば全てが違うタイプだった。

 最初の清楚だったり、可愛かったり大人っぽかったり、そしてボーイッシュやらカッコイイ感じやら。


 そう顕著けんちょに分かれている数々の組み合わせの中で、俺が好きなものと言えば……


「……やっぱり、最初の服装、かな。あれが二乃のイメージに一番合っていたし……」


 かなり苦渋の選択ではあったのだが、なんとか俺はそう絞り出す。

 でも、二乃のイメージに合う最初の服装が、俺は一番好きだと確かに感じたんだ。


 ……しかし、二乃の方を見ればどうやら不服そうであり。


''かずくんの意見無しのものじゃないですか。''


「俺の意見ってそんなに重要なの?」


 反射的にそう返すと、二乃は当たり前だと言わんばかりに力強く頷いた。

 そんなカジュアルな格好でのその仕草に、えもいえぬ可愛さを感じたのは今は秘密である。


 んー……でも難しいな。

 俺は顎に手を添えて、ううむ、と唸る。


「ぶっちゃけどんな格好の二乃も好きなんだけどなあ……」


 だけどそれ以上に考えても何も出なくて、つい思ったことを口にした。


 ただ、それが事実なのも変わりない。

 本当にぶっちゃけ、色々なファッションを試すどんな二乃も俺は好きだから。


「………!?」

「……ん?どうした?」


 すると、何故か二乃の様子がおかしくなってきた。

 顔を赤く染め、口元を腕で隠している。


 一瞬具合が悪いのかと思ったが、どうやらそうでも無さそうだ。

 要因が分からないので尋ねてみるも、二乃はぶんぶんと顔を横に振るだけだった。


「……ん?」

「………!」


 本当に大丈夫なのかと首を傾げる。


 しかし、二乃に試着ボックスのカーテンを勢いよく閉められてしまった。

 瞬く間に俺たちの間で壁が作られ、それ以上の踏み込みが叶わなくなる。


「なんなんだ……?」


 着替えると思った俺はそんな試着ボックスから離れながら、そう呟いた。


 尚、その後の二乃は試着した服を3セット程購入し、手を繋ぎながら家に帰ったのだった。



 □(此花二乃 視点)



 うう〜……!


 時々ですが、何故突然恥ずかしいことをそう平然としてくるのでしょう……


 別に嫌って訳ではありませんけど……寧ろ、その……


 と、とりあえず、色々な服装を試してみましたが私が選んだ服が良いらしいですね。


 正直そこまで自信はないのですが……これを中心に、他のも少し買っておきましょう。


 今回は金銭的に厳しかったですが、他の買えてないのも後々。


 今日とはまた別の日に、かずくんに見せられる日が今から楽しみです。

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