第十八話:Re:ファッションショー 中編

「………」


 ──居心地が悪い!


 ……二乃にのの頼みを断れるはずもなく。

 俺は今、レディースのアパレルショップで''男一人突っ立って、''黙り込みながら心の中で叫んだ。


 ……いや、スタバでもそうだったけども。

 オシャレの''O''すら縁などなかった俺に、この現状は些かハードルが高すぎやしないか?


 ……まあ自分から来たけどもさ。

 一応俺だって花のDK男子高校生になったんだし、少しくらい勉強した方がいいのかなあ……


 なんだか某ゴリラみたいな呼び方だな。


 ……それはさておいて。

 幸い、店内に人気はそこまで多くはなく、視線も余り感じないのは救いだろうか。


 ……不埒ふらちな考えではあるけど。

 ラノベなどでたまに見る、試着中の衣擦れの音も試着BOXからある程度距離を置いているので、ある程度は気まずさも少ない。


 ……あくまで''ある程度''だが。

 そんな誘惑無しでも、''カーテンの向こう側''を想像してしまうのが男のさがなのだが。


 ……しかし、無論のこと俺にとって二乃は十数年隣にいた大切な幼馴染である。

 そんな彼女のことを、想像上だとしてもけがすことは俺自身が許したくはない。


「深呼吸、深呼吸だ……」


 ……という、色々な意味を持って、俺は心を無にしたモノローグを語っていた。


「……お客様?」

「ひゃいっ!?」



 □



「──えっと……そんなところ、ですかね」

「なるほどなるほど〜」


 ──先程も声を掛けてきた店員から、俺は何故か予期せぬ尋問をされていた。

 一応レディース店のため、そういう気遣いなのだろうが……それが少し困るものだった。


 何がって、その尋問とやらがかなり難問で、毎度毎度と口がつぐんでしまうのだ。

 店員は営業スマイル&テンションMAXでまくし立ててくるため、本当に困った。


 ……いや、あの。大変申し訳ないが、詳しい内容はあまり言いたくはない。

 というか、ある程度離れているとはいえ、二乃に聞こえてないよな……?大丈夫だよな?


 ……ああでも、もし聞こえてなくても、驚いた時の間抜けな声は絶対聞こえたよなあ……

 『ひゃいっ!?』って、女の子かよ……。ああ、本当に恥ずかしい……


〈シャッ──〉


 そう俺が耐えること、体感数十分。

 ……実際にはたったの数分程度。


 距離にして約5m離れていた試着BOXから、勢いよくカーテンを開く音が響いた。

 俺にとってはようやく、二乃が選んでいた衣服に着替え終えたらしい。


 話しかけてきた店員と同時に振り返れば、そこには見事に衣服を着こなす二乃の姿が。

 少しはにかんだ表情……で俺を見た途端、結構その距離があったことに驚いていた。


 ……いや、いくら幼馴染といえ、異性なんだしある程度離れた方が良いだろ?

 二乃の考えを察知した俺は、心の中で弁明?をして彼女の元に近づいた。


「………」

「……ふむ」


 二乃の少し不安そうな表情を受け止めつつ、俺はその容姿を眺め始める。


 二乃のファッションは、明るいベージュのニットベストとフレアスカートで統一したもの。

 ベストはハウンドトゥース柄で、少しゆったりとした雰囲気を感じる。

 ベストの中には純白のブラウスを来て、スカートにタックインをしているようだ。


 そんな育ちの良さを感じさせる上品さ。

 その上、制服下に着ていた薄生地の黒いストッキングを脱いだらしい。

 生足という開放感のある感じで、同時にあどけなさをも体現されている。


 高校新入生という少女でありながら、大人びており清楚な雰囲気の二乃。

 亜麻色の髪と灰色の瞳とも絶妙にマッチしており、自分の特徴を完全に理解している。


 試着のため靴や小物類が無いのは仕方がないが、それでもかなりの着こなしであった。

 ……以上、解説はラノベで洋服の知識だけ無駄に蓄えていた如月一樹きさらぎかずきでした。


「……すげえ、似合ってる……」


 心の中で細かく解説しながら、俺はそのセンスに軽く圧倒されていた。

 その有様は、二乃が長年オシャレを勉強していたことを物語らせている。


 そんな俺の呟きを聞いた二乃は嬉しそうにはにかむと、ポケットからスマホを取り出した。

 素早い指の動きを見るに、どうやら何かメッセージを送ってきているようだ。


''ありがとうございます。他も試着しようと思うのですが、かずくんは何か私に着て欲しい服があったりしますか?


「え、俺?」


 コクコク、と頷く二乃。

 ……そういえば、俺が付いてきた理由って意見がどうたらって話だったっけ。


 先程心を無にするために考えすぎて、少し忘れてしまっていたようだ。

 服のセンスに自身はないが……そもそもの目的だし、一生懸命考えてみよう。


 そう意気込んだ俺は、いつの間にか姿を消した店員のことも忘れ、服を選び始めた。

 それはかなりの時間を要し、終わる頃には太陽が西に傾いていたのだった。



 □ (此花二乃 視点)



 ふむふむ、なるほど……


 私にとって本来の目的である、彼の好みを知る機会が訪れました。


 彼の選んでくれた服は出来るだけ着用していき、彼の感想を聞いていきます。


 彼が「似合ってる」と口にしてくれれば、嬉しくなってすぐ購入を決めます。


 予算は高校生なのでそこまで多くは無いものの……背に腹は変えられません。

 

 ……ただ、その間に少し笑っちゃいます。


 ……なぜだか驚いたような声を上げていたかずくんの声、可愛かったなあ……と。

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