第十七話:Re:ファッションショー 前編

「買い物にも行きたいと書いていたけど、何を買いたいんだ?」


 ──無事にス〇バから出て。


 だだっ広いモール内を歩きながら、隣にいる二乃にのに俺はそう尋ねた。

 例によって、手はぎゅっと繋がれている。


 メインの目的は確かに昼食だが、メモには『買い物もしたい』と書かれてあった。

 買い物といえば、女の子のそれは長いと聞くが、今のところは気にしないつもりだ。


「………」


 それを聞いた二乃は、待ったのジェスチャーをして立ち止まった。

 スマホを取り出しているあたり、どうやら表現が難しい物のようだ。


 素早い指さばきでスマホの操作をすると、それを俺に見せてくる。


''めでたく高校生になったので、改めて服を新調したいと思います。''


 表現が難しいと言うよりは、伝えたい内容が多いため筆談を活用したようだ。


 それで、なるほど。長年隣にいたため実感は無いが、やはり二乃も年頃の女の子。

 彼女も、流行というのを追いたいらしい。


 いつの間に成長したんだな……

 幼馴染といえど、学校関係以外で会うことが少なかった俺は一人涙を流した。


 まあ、一人変なノリはここまでにして。

 そういうことなら、ぜひにでもそのショッピングに付きいたい所なのだが……


''よろしければ、かずくんの意見も聞かせていただければなあ、と。''


 その下に記されていた文章を見て、完全に俺は及び腰になってしまった。


「えっとな、二乃。俺、そういうものには全く詳しくないぞ?」


 ……言わずもがな、俺はオタクである。

 つまりいうと、太陽の下で堂々と歩く若者の流行は、Rのローマ一文字さえ分からない。


「………!」


 しかし二乃はというと、全く迷う素振りも見せずに力強く頷いてきた。

 その表情は何故か自信に満ちあふれており、まるで問題ないと言わんばかりである。


 いや、でもなあ……

 困った答えが帰ってきたため、どうしたものかと俺は頬を掻く。


 しつこいかもしれないが……二乃のその美貌を、この俺自身で汚したくない。

 それを手にするまでどれだけ苦労したか、幼馴染として一番に分かっているつもりだ。


「………」


 しかしそんな願望もむなしく、二乃は瞳をうるうるとうるませてきた。

 その目で上目遣いにこちらを見つめて、だめ……?とでも言いたげである。


「……こんな俺でよければ、わかったよ」


 その表情を前に断れる訳もなく、結局は俺の方が折れて承認するのだった。

 すると二乃は表現を一変させ、輝くような顔で満足そうに頷いている。


 ……勝てないなあ、やっぱり。

 そんな顔を見てずるい、と思いつつも、頬を緩ませている俺なのだった。



 □



 ──あれから、数分程歩いて。


 俺たちは、他のショッピングモールで二乃の行きつけらしい服屋へ訪れていた。


 バニラ色を基調とした内装、所狭しと並ぶ女性物の衣服、キラキラとした若者の店員。

 あまり見慣れぬ店だが、ス〇バに負けずおとらずの雰囲気に緊張感が体をほとばしる。


 ……いや、『見慣れぬ』っていうか、ここってレディースのアパレルショップだよな。

 ス〇バでさえ縁のない所なのに、俺がこんな場所へ入っても大丈夫なのか?


 そんな俺のことなどつゆ知らず、二乃は手を引いてきて、呆気あっけなく入店することになった。


「いらっしゃいませ」


 途端とたんにそう言って近寄ってきたのは、素敵なスマイルを浮かべた若い女性。

 恐らく店員だろう。店にあるような服を着こなしており、とてもオシャレだ。


 というか、しま〇らと違ってオシャレな店は店員が直接対応にくるんだな……

 あ、別にしま〇らを貶してるわけじゃないぞ?あそこは行きやすいのが特徴だからな。


「………」

「え?……あっ、なるほど。そういうことでしたら、ごゆっくりどうぞ」


 そんなこんなで後ろから眺めていたら、店員がそう言ってこの場を去っていった。

 後ろからだと分かりにくかったが、自分だけで大丈夫とジェスチャーをしたのだろう。


 というか、彼女がしゃべれないのを直ぐに察知してくれたあの店員、地味に凄いな……

 すると二乃は、名残惜しそうに俺の手を離すと、数々の服を漁り始めた。


 今は春だからか、明るめの色、薄い生地で露出は少なめな服が結構多い印象がある。

 二乃はその中から、ピンと来たらしきものを買い物カゴを取って放り込んでいく。


 その間、俺は完全に蚊帳かやの外だった。

 ……今のところ、全くといって意見を言う暇がないのだが?


「………」


 不思議に思いながら律儀りちぎに待っていると、直に選び終えたのか二乃が戻ってきた。

 買い物カゴには沢山の服が入っており、それを片手に俺の手を取ってきた。


 向かうのは、レジ……の方ではなく、どうやら併設されている試着BOXの方。

 ──って、まさか……!?


''これから試着致しますので、良ければご感想やご意見を頂きたいです。''


 BOX前に来るなりメモでそう伝えてきた二乃に、俺はごくりと息を飲んだのだった。



 □ (此花二乃 視点)



 服を新調しようか悩んでいましたが、まさかこんな機会が訪れるとは……!


 正直色々な偶然が噛み合ってのものではありますが、やはりこれも僥倖ぎょうこうです!


 ただ……中学生になってから私服姿を披露ひろうしていないので、少し恥ずかしいですね。


 ですが、かずくんの好みを知るチャンスですし、頑張るのですよ私!

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