第二十話:Ne:二日ぶりの嫁 前編

「ふう……」


 ──家に帰ってから、しばらくして。

 入浴を済ませた俺は、拭きそこねた水滴すいてきを肩に巻いたタオルで拭いながら自室へと戻った。


 一昨日といい髪を傷めるとか言われるかもしれないが、別に気にするつもりはない。

 最低限の身だしなみは整えているが、そこまで気にしてるわけでもないからな。


 そんなこんなで、''いつもの時間''になったのでPCを起動し、例のネトゲを開く。

 昨日はデイリークエストを済ませて直ぐに閉じたため、実質一昨日ぶりのネトゲだ。


 現在は特にイベントが無いため、一人でしていても経験上そこまで面白みがない。

 だったらフレンドとやれば、と言われそうだけど、ファウ以外のフレンドとは最近ほとんど交流してないのだ。

 

 ファウとするという習慣になっているな、と一人で静かに笑った。

 ネトゲに限る話だけど、俺の中ではもうファウが必要不可欠みたいた。


 まあ、それはいいかな。

 ネトゲを開いて直ぐディスプレイに映ったのは、前回と同様[始まりの街]である。


 恋愛相談された時みたいに遅い時間までプレイしない時、俺とファウは大体ここでログインとログアウトを済ます。

 以前説明した通り、アイテムやガチャを販売しているのと、ネトゲの世界の中央にあるため移動も効きやすいからだ。


 だから基本的にここが待ち合わせ場所になるのだが、周りを見渡してもファウの姿は見当たらない。

 フレンドリストを見る限りはログインしているはずではあるのだが……


【セコンさん、こんばんは〜(・ω・)ノシ】


 と思えば、個人用メッセージを受信すると共に、青髪美少女がこちらにゆっくりと走るモーションを取りながら近づいてきた。


 ファウだ。たった二日ぶりだけど、なんだか少し懐かしさを感じるような。


【こんばんは。ガチャを引いていたの?】


【はい!今日は丁度、ログインボーナスでチケットが貰えたので('ω')】

【・・・まあ、セコンさん程の運は発揮できなかったわけですが(´・ω・`)】


 ガチャスペースからやって来たファウにそう尋ねると、ファウはウキウキとしたモーションを取った。

 かと思えば、爆死したと察せられるメッセージと共に、どんよりとしたモーションを取る。


 そんな喜怒哀楽?を取るモーションも、少しコマンドが必要なのに、器用なものだ。

 俺では到底真似できそうにないな。見ていて微笑ましいから、少し真似てみたいのに。


【一応は私よりもセコンさんに向いていそうなアイテムなので、譲りますね】

【この間のお返しとしては、かなり物足りなさを自分でも感じますが(・-・*)】


 そう一人で悲しんでいたら、そんなメッセージと共にアイテムが送られてきた。

 メニューを見れば、赤い宝石が埋め込まれた金色の腕輪が追加されている。


 効果は……確かにファウが使うよりは、俺が使った方が強力ではある。

 でも、正直に言うと、今俺が装備しているアクセサリーの方が何倍も強いな。


 まあ、だけど。


【全然そんなことない。ありがたく受け取らせてもらうね。ありがとう】


 折角のファウから送られてきたアイテムだ。

 早速アウト装備の方に、この金の腕輪を装備することにした。


 ちなみに''アウト装備''とは、能力値は変化しないが見た目が変わる装備の事だ。

 能力値を変化させる''メイン装備''の、上から被せるような形になる仕組みになっている。


 お陰で、様々なファッションセンスを他人に見せることが出来る。

 まあ、俺はそういうのには疎いけどね。


 ……ファッションといえば、今日は二乃にのとイ○ンでアパレルショップに行ったな。

 二乃はどんな服装も似合っていて、改めてその容姿の可愛さを思い出す。


 そういえば、ファウも近くにショッピングモールが出来たと言っていたっけ。

 好きな人とデートをする、と、この前の相談では決まったけれど……


【そういえば、デートは行ったの?】


 思い立ったが吉日、俺は真正面から何にも誤魔化さずに尋ねた。

 送ってみて思ったんだけど、こんなドストレートに言う必要は無かったな……


 少しした謝罪のメッセージを送ろう……としたが、ファウは先に返信を送ってきた。


【行きましたよ〜˙꒳​˙)】

【学校帰りに行ったのですが、とても楽しかったです!⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝】


 顔文字が二つも含んでいるのに、返信するのがとても早い。


 それはいいとして、楽しかったならば良かった。俺は胸を撫で下ろす。

 聞いた限りは仲が良さそうだからゴーサインを出したけど、些か距離を近すぎて、返って距離が出来てしまうこともあるらしいし。

 杞憂きゆうに終わって良かった……


【ただ、彼が楽しそうにしていたかは、少し自信が持てません・・・(´・ω・`)】


「ん?」


 しかし、続けてファウから送られてきたメッセージは不安をぶり返すものだった。

 もしかして……と、俺はマウスを強く握り、次のメッセージを待つ。


 いつものように、ファウがメッセージを続けて送ってくる速度は速かった──

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