第12話 ドッキリドキドキあまぁいお誘い2

 ―――あっ……危なかったぁぁぁ……っ……!!


 ……もうちょっとでスルスル会長の言うことに流される所だった。

 もし、流されて一度でも『いいですよ』と言ってしまったら、

 ―――きっと明日の朝にはもうこの寮で目を覚ましていることだろう。

 ……さっきの会長の様子からすれば……多分、この考えも嘘になることなく、実現してしまう……いや、ホントに。

 ……だって、会長は嘘なんかつかないから。


 って、まぁ、そうなると……

『おはようございます、宮水さん』とか、

『このままでは遅刻してしまいますよ?』とか、

『起こしに来ましたよ、宮水さん』とか『お夜食一緒にどうですか?』とか『今日は一緒に寝てくれませんか?』とか言われるよ絶対モーニングコールなんか当たり前だようん間違いないしかもお風呂……お風呂とかそういうの……一緒に、入ろうとか……そういうの、言われたら―――


「ッッ!!」

「!? な、なんで突然自分のほっぺた叩いてらっしゃるんですか?」

「あ、いえ、何でもないんですよ会長! 何でもないんです!」


 ―――おぉ……すごい……会長に言われる未来が見える見える。

 魅力的な文言とか、お誘いとかさ、多分一日過ごすだけで心臓張り裂けるようなことをたくさん言ってもらえるんだよ……幸せ、だなぁ……絶対。

 ……その生活も悪くはないって言うより天国って感じだけど、困っちゃうんだよね。


 ―――この寮から歩いてくるところを見られて、噂話を立てられる面倒な未来もさ、見えるんだよ。


 ……そうなってしまったら、困る。

 私が変な噂を立てられるのはどうでもいいけど……会長に被害が及ぶのは嫌。

『ひいき』とかっていうくだらない想像も、『熱愛!?』とか『同室でイチャイチャ生活!?』とかそんなゴシップも―――いや、1000%そんな噂が立つだろうとか、そこまで私が注目を集めてるとかってうぬぼれてるわけでもないんだけど―――でも、線引きは必要だ。

 ……そう、思う。

 だから、我慢だ。


「宮水さーん? 行きますわよー!」

「……っ! あっ、はいっ! 今行きます!」


 あ、でも―――どうして会長は、なんでこんなに私に構ってくれるんだろう。

 私を誘ってくれるんだろう。


 ―――単に、すぐそこに私がいただけ?

 ―――それとも、何か他に理由が?


「あの、どうかしたんですか?」

「あっ!? いえっ全然っ!何にも!」

「? でも、なんだかお酒飲みたくてしょうがない会社員みたいな顔してますわよ」

「え……? あぁ、うん……? あぁ! いえ全然大丈夫ですよ! ちょっと明日までの課題まだやってないなって思っただけなので! 大丈夫です!」


 ―――分かっている。

 そんなことを思うことも失礼だってことに。会長は、ちゃんと理由と根拠をもって私を選んでくれたんだ。こうやって寮に招待してくれたのも、他の生徒会員よりも、ほんの少しだけ、小さな秘密を知っているだけの事。

 勘違いしちゃいけない。どうしてなんて思っちゃいけないし、そもそも理由があると思っているのも良くない。期待しちゃダメだ。

 今は、こうやってお話させてもらえるだけでもいい。全然いい。

 本当だったら会長は、もっとたくさんの人に囲まれて……目線を合わせる事すらラッキーな御方なんだから。


 ……いやでも、でもですよ? 会長?

 その例えは良くないと思いますよ?

 多分、なんかしらの憂鬱を抱えてる、って意味の例えだと思いますけど……思いますけど―――私、一応まだ会長が呑んだくれなの信じたくないんですよ??

 思い返してみればあの日、会長の机の上に何本も缶ビール置いてあった気もするけど……まだ信じたくないんですよ?


「―――はい、ここですわ」


 ……考えごとをしてたから、どんな話を会長としたのかあまり覚えてないけど―――会長の貴重なお話を聞き逃してしまった事を公開してるけど―――いつの間にか、私達は「天吹 姫」とプレートが掲げられた扉の前へとたどり着いた。

 階段を上がった先の二階。他にもいくつか部屋がある廊下に、会長の自室はあった。


 一体、どんな部屋なんだろう。


 そんな期待が私の中に生まれていた。

 だって、これだけ豪華な装飾の施された室内を見ているんだもの、その室内もどこかの高級ホテルのような様相をしていても何にもおかしくない。

 ……身の振り方には気を付けないと。いや、物理的な意味で……室内にある花瓶とか割らないようにしないと……何万するかも分からないんだから。

 そして会長は、ドアの鍵を開けて「はい、どうぞ入ってくださいな」と扉を開いた。


 ―――プレートが掲げた部屋の、を。


「―――ん???」

「どうかしましたか?」

「え、いや、あの……会長の部屋って、こっちじゃないんですか??」


 人差し指でプレートが掲げられた方の扉を指し示すと、なぜか会長は頬を染めた。


 ―――え、ん? どうして?


「部屋を見せるのは……少々、恥ずかしいではありませんか。わたくし……少々、整理整頓が苦手なんです」

「え? あぁ、はい」

 確かにそう言われてみれば―――数回しか入ってないけれど―――生徒会長用の机の上、書類に塗れているしなぁ、なんて思いながら次の言葉を待つ。


 ―――すると、


「なので、こっちの部屋でお話させて貰ってもいいですか?」

「いえ、まぁ、それは別にいいんですけれど……こっちの部屋は、会長のお部屋ではないんですか?」


 プレートも、○○室ともその扉には明記されていなかったから、そう問いかける。


「えぇ。、としては使っておりませんわ」

「じゃあ、何の部屋なんですか? 誰かが泊まりに来た時用の部屋とか?」


 そう当然の質問を私がすると、何故だかちょっと―――どやっとした顔で会長は、こう言った。


「そうですわね。分かりやすく言うのであれば―――居酒屋、ですのよっ」

「……………………んん????」


 あの、会長……『居酒屋』を、勘違いしていらっしゃいませんっ!?

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