第9話 たった三人の生徒会
「初めましてセンパイ方!! 私!
ガチャ、っと会長が開けた扉から、生徒会室に入ってきたのは一年生、二人。
ショートカットの超元気そうな女の子と、眼鏡をかけた大人しそうな女の子のセットだった。
「あ、うん……よろしく」
「よろしくお願いします!!!!」
「え? うん、よろしく?」
「よろしくお願いします!!!!」
……なんか、このまま返事をしていると無限ループになってしまいそうな女の子は、鳴ちゃん、って呼べばいいかな。とりあえず、一か月ちょいの関係だし、それぐらいが当り障りないよね、きっと。
「あ、えっと私は、宮水桜。これからよろしくね」
なんてことを思ってたから―――グーで殴られることになるんだ。
「はいっ! 桜さまっ!」
―――ッ!?
「うっ……!」
「み、宮水さん!?」
「センパイ!? 大丈夫ですか!?」
……そうだ、そうだよ……!
あんまり後輩に接する機会がないもんだから忘れてたけどさッ!!
……この学園、先輩に『様』をつけて呼ぶ風習があるんだよ……忘れてたけどさ!
「あー……うん、大丈夫だよ、三上さん」
「いえでもっ! そんな急にうずくまって……! どこか痛いのですか? 胸が痛むのですかっ」
「う、ううん大丈夫……ちょっと、胸がきゅんってして、胸がきゅうってなっただけだから」
「え……まさか、心筋梗塞!?」
「そ、そんなんじゃないよ……大丈夫」
と、とにかくいつまでも赤いカーペットにうずくまっている訳にもいかないから、震える足腰に鞭打って立ち上がった。
……桜『様』……桜『様』かぁ……お嬢様ポイント高いなぁ……可愛いなぁ……これは……!
慣れない呼称すぎて、胸が超痛くなるぐらいには威力高いね、うん。
と、とりあえず早く慣れよう……心臓への負担が大きすぎる。
「えっ、ええっと……それで、あなたは?」
だから、意識と心臓のバグバグから目を背けようと、鳴ちゃんの隣に立っている、メガネっ子に質問をした。
もちろん、自己紹介を聞いて、仲良くなるためのステップとしての質問だったけれど―――
「Ravi de vous rencontrer, les aînés. Je suis Kasama Rei. Je suis le trésorier. C'est tout. J'ai hâte de travailler avec vous」
―――返ってきたのは、一ミリほども理解できない挨拶だった。
「……え?」
な、何語……? え、髪黒いけどもしかして外国出身の方とか?
え、英語でもないよね……何語?
本当に人類言語? 宇宙語とかじゃなくて?
―――って戸惑ってたのは、どうやら私だけみたいで―――
「Oh, ravi de vous rencontrer. Je suis Saki Mikami. J'ai hâte de travailler avec vous au cours du mois prochain.」
「え゛?」
―――三上さんの口からも、スラスラサラサラ……れ、れいちゃんかな……が話したのと同じ言語が出てくる。
しかも、鳴ちゃんも会長も、れいちゃんの言葉を苦もなく理解しているみたいで、笑ってたり、ちょっと困ったような顔をしていた。
お、お嬢様のパワーが凄すぎる……なに? みんな十か国語ぐらい話せるの??
もしかしてだけどさ、この学園だとそれぐらいできて当たり前だったりするの??
―――っと、思っていたら。
「まぁまぁ、『れい』さん。自己紹介ぐらいは『全員』に伝わる言葉で話してください」
「ん……分かりましたよ、会長……どォも、初めまして先輩方……
「あ、うんよろしく。私は―――」
「そっちが宮水桜サマ。こっちが三上佐紀サマ……これぐらい、一回聞いたら覚えられますよ」
……どことなくツンとした低い声で、自己紹介を遮られてしまった。
印象的なハスキーボイス……その声に引き付けられるように、メガネの奥の覗いてみれば、そこには光のない……暗くて鋭い瞳が見えた。
「ちょっと!! ダメだよそんな言い方しちゃ! センパイ達に失礼だよ!」
「……んなことないだろ」
「ある!!」
「……ねぇよ」
……うーん、やばいね―――かわいいね、この子。
……別にこれがどうこうって話じゃないけど……メガネっ子で、ハスキーボイスで口が悪い……しかも、当然のようにお嬢様……やっばお嬢様ポイント高得点だ……!
……いいねぇ……すごくいい……!
「―――何か余計なこと考えていませんか? 宮水さん」
「えっ!? な、なにも!?」
ジドッ、と三上さんの鋭い視線が、私に刺さった。
……も、もしかして三上さん……思考を読み取れるお嬢様パワーを持ってたりして……?
「まぁ、とりあえず自己紹介は済みましたね」
と、会長が間を取り仕切るように、声を掛けてきた。
「これから
その会長の言葉に、鳴ちゃんと零ちゃんの二人は、真剣に耳を向けているように見えた……信頼しているんだろうなぁ、会長の事。
「―――今日は確か一年生は、これから学年行事がありますわよね? 遅れないように、なるべく早く向かってくださいね」
「……了ォ解」
「分かりましたカイチョ―!」
……と、二人は返事をして、生徒会長を出て行った。
「……仲いいんですね」
そう何となく思った言葉を、私が会長に言うと―――
「えぇ―――そうですわね」
―――失敗したと思った。
……一年生の生徒会役員に逃げられているんだから、『仲いい』だなんて言葉は、良い言葉じゃないのに……そう言ってしまった。
「……あっ、いやっ、えっと、その……っ」
そう思って、慌てた声を出してしまうと―――
「あ、そう言えば会長さん」
―――どこか、タイミングを計っていたような声が、三上さんの声が、聞こえてきた。
「はい、なんでしょうか」
「さっきの自己紹介からすると、鳴さんが広報で、零さんが会計なんですよね」
―――か、会計だったんだ……零ちゃん。
「えぇ、そうですわ」
「であれば、書記がいるはずですよね。あと、会計監査も必要では……もしかして、今日はお休みだったりするんでしょうか」
……確かにそれは気になったけれど……でも、今のタイミングで来ないってことは……もしかしなくても……
「いいえ」
「……ということは」
「つい昨日まで、聖アルテミス学園生徒会執行部はたった三人。風雲 鳴。笠間 零。そして、私、甘吹 姫の三人しかおりませんでした」
……それは、一年生の事を除いても……必死にもなるよね。
「えっ、じゃあ、もし私達が参加しなければ」
「生誕祭は、会長さんたち三人で強硬運営する予定だったんですか?」
そう私と三上さんが問えば……溜息交じりの呟きが、
―――聞こえた。
「そう、なっていたかもしれませんわね」
―――物悲しそうな目で、そう会長は言ったんだ。
……それを先に行ってくれれば、と思った。
でも直後に……情に訴えたくなかったのかな、って反論が浮かんだ。
……三人に、所詮二人が増えたところで、私達は激務なんだろう、と思った。
でも直後に―――頑張りたいって、思えた。
―――会長に恩返しをするんだ。
―――頑張らないと。
「とりあえず、今日の所はこれでお開きにしましょう。やってもらいたい業務の説明は、明日移行しますので―――そもそも、どこをどう分担するかもこれから考えないといけませんので」
「会長さんがそう言うのであれば、現状、私達に出来ることは何もないでしょう。では教室に戻りましょうか、宮水さん」
「あ、うん。そうだね」
その時、私は三上さんの言うとおりに、生徒会室から出て行こうとした。
中等部の元生徒会長だった三上さんが言うなら、出来ることは本当にないんだろうって、そう思って。
「では、失礼します」
だから、そう言った三上さんに続こうとして―――
「宮水さん」
―――スッと、小声で名前を呼ばれた瞬間に、ポケットに会長が何かをいれた。
「か、会長?」
カサリ、とポケットに入れた物の正体を知りたくて、そう呼び掛けても―――
「しっ……ですよ?」
―――会長は、唇を人差し指で押さえて、ウインクするだけだった。
その後は、三上さんと一緒に、宣言通りに教室に戻って……役員任命の事を、クラスメイトに散々騒がれた後に、帰寮した。
正直、教室にいる間は居心地が悪かったけれど……でも、それも、仕方の無いことだってわかってたし、ところどころで三上さんがフォローを入れてくれたから、多分一人で質問攻めにあうよりは、ストレスは少なかったと思う。
……お嬢様に囲まれるって状況は、嬉しいんだけどね……!
―――まぁ、だから忘れていた。
―――寮の部屋に戻って、制服を脱ぐ、その瞬間まで忘れていた。
「あ、これ―――会長の連絡先……っ!?」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
プロローグ:終
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