1章 『一緒に麦シュワしますわよ宮水さん!』

第10話 逢引き:こっそり二人で会うこと

「……来ちゃった……ここが、特別寮……」


 夕食終わりの午後八時半。

 私は、学園の中の「特別寮」と呼ばれる所に来ていた。この寮は、生徒会の重役……それこそ、会長や副会長のみが受けられる特別待遇の一環で整備されているもの。

 私の寮から徒歩三分ほど歩いたところにある、三階建ての建物で、学園と同様にヨーロッパ風の建築になっていた。両開きの玄関扉の横には、電子チャイムが付いていた。

 流石にこれだけ広いと、ドアノッカーでは不便なのかな。


 と、そこで、ブブッと私のスマホが鳴る。


『寮まで着きましたら、チャイムを五回鳴らしてください。』

『それ以外の鳴らし方では、メイドが出ませんの。』


 と、タイミング良く、お呼ばれメッセに続いて会長から連絡が来ていた。

 キチンと、文の終わりに丸を付けている辺りに彼女らしさを感じて、ちょっと微笑んでしまう。


「……いや、浮かれすぎ……ダメでしょ私! 会長は、相談したいことがあるって私を呼んでくれたんだから……!」


 そう小声でボソボソと私は自戒を述べる。そうだ。わざわざ厳重に自室にまでよんでの相談なのだ。それだけ、外にバレると不味い内容なのだろう。もしかしたら、私が会長の飲酒の光景を見てしまったことについてかもしれないし……

 緊張しながらも私は、人差し指でチャイムを押そうと、指を伸ばし―――


「―――ごきげんようっ」

「うわあぁあっ!!?」 


 ―――ボタンに指が触れる前に、ガチャリと重厚な扉が開いた。内側に開いた扉と反対に、私が肩から飛び跳ねる。あぁ、びっくりした……これじゃあまるでお化け屋敷にでも入ったかのようだよ……まぁ勿論、扉を開いたのはお化けじゃなくて―――


「―――えっ、あ、会長っ?? ご、ごきげんよう」

「はい、よくいらっしゃいましたね」

「えっ、あの……メイドさんがどうこうってのは……?」

「寮にメイドなどいる訳ないでしょう? ジョークですわよ♪」


  ☆


 事の始まりは、寮の自室で制服を脱いだ時。

 きっかけは、制服のポケットに入っていたメモ紙を見つけて……そこに書いてあった連絡先を―――メッセージアプリのIDを入力した、その瞬間。


「うわぁ……どうしよう……登録しちゃったけどさ、がっつり『天吹姫』って書いてあるよ……これ会長の連絡先だよ……! えっ、なんで…? なんで私に連絡先渡してきたの? あ、あんな……もぉ……こっそり、こっそりって感じでさ渡してきたじゃん……え、なんで? なんでなの? どんな意味があるのねぇ??」


 ……多分、そのメモ紙は、今日、生徒会室を出るときに入れられた物だと思う。

 ……いろいろあって忘れてたけど……そうだよ。何か凄く意味ありげな感じで渡されてたよ。カサってしっかり音してたよ……


「……え、でも、連絡先渡してくるんだったら……私と連絡を取りたいってことだよね……裏でこっそり会話をしたいってことだよね?? 裏? 裏って何? こっそりってこと????」


 ポケットに入れられたのは、飴とかラムネとかじゃない。

 そうであるならちゃんと……目的があるはずだ。


「―――っていやいやいやいや! 何バカなこと言ってんの私! 会長だよ? 憧れだよ? お嬢様学園のトップだよ!?」


 そうだ。超多忙の会長が、私なんかを気に留めているはずがない。

 せいぜい制服の胸ボタンぐらいが私への好感度だって!


「私なんか気にもかけないって……連絡先送ってきたのもね! うんっ! きっと! ただ生徒会に入ったからしょぉうがなく渡しておこうって思っただけだよ……その程度……その程度の……自分で言ってて悲しくなってきたけどさ、その程度なんだよ私と会長の間柄はさ―――」


 そう自分の部屋で騒ぎまわってた間に―――ピコンッ と通知が鳴る。

 通知が鳴る。通知が鳴って―――『天吹 姫』って文字が目に入る。


「―――うそでしょ?」


  ☆


『今夜、特別寮に来てくださいませんか?』

「宮水さんに相談したいことがあるのですわ』

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