第7話 印象引力

『これより、全校集会を執り行います。初めに、生徒会執行部、天吹会長より講話を―――』


 時刻は進んで、午後二時。隔週水曜日に行われる全校集会に私は出席していた。他の学校だったら出席は義務みたいなところなんだけど、ここは自主性を重んじる聖アルテミス学園。

 出席するもしないも、各人の自由。

 私の教室にも、待機して読書や勉強をしていたり、あるいはもう下校して寮に返ってしまっているクラスメイト達がいる。


『ごきげんよう、皆さん。生徒会長の天吹です。本日は、手短に二点の事を告知させていただきたいと思います』


 加えてどこに座るか、誰と座るかも自由であり、私は三上さんの隣に座っていた。

 集会が行われるのは、体育館みたいなところじゃなくて、学園内にある大ホール。

 フカフカの椅子に座りながら、私は会長の話を聞いていた。


 ……正直今は、なるべく天吹会長を遠ざけていたい気分なんだけどなぁ。

 まぁ…仕方ないよね。三上さんに、『一緒に行っていただけませんか?』なんて控えめにお願いされてしまったら行かないなんて選択肢が無くなってしまう。

 そんなことを思っていると勝手に視線が向いていたようで、チラッと三上さんがこっちをみて、微笑んでくれる。


 うん、今日もお嬢様。


『まずは、もう約一月先へと迫ってきている、聖トリミアス生誕祭についてです。現在、各クラスで企画を立案、そして、会議を重ねていると思います。生徒会では現在提出された議事録を読ませていただき、現在、仮として企画が決まっているクラスには、前例などからルール上必要になりそうな準備や注意点等を記したものを明日までに返却しますので、企画立案に役立ててください』


 特に向かう先のない視線が、会長を捉える。

 あぁ、やっぱりかっこいいなぁ。スポットライトの当てられたステージで、一切臆することなく凛々しくと話をするその姿に、崩れたと思っていた憧れが再生されるような気がした。原稿も当然無く、ホール全体を見渡しながら。

 昨日見たあの姿が、本当かどうか疑わしくなってしまうぐらいには堂々と。実は双子です、と打ち明けられても驚かないと思う。


『また、およそ二週間後までには、クラスごとに完成版の企画案を提出していただきます。それを、生徒会執行部の方ですでに提示してありますルールに基づいて問題が無いことを確認させていただき、実行の可否を出させていただきたいと思います』


 そこで一度会長は言葉を切った。

 それは、明確に話題を切り替えるようにも、何かグッ、と決心したようにも私には見えた。


『続いて二つ目の告知になりますが、新たな生徒会役員の任命を、行いたいと思います』


 えっ!という声が、周囲の生徒たちから漏れた。

 かくいう私からも、同じような驚きの声が出たんだけど……多分、周りの子達とは違う点で驚いていると思う。


『―――退会請願書。生徒会長の任命によって決定される役員は、許可なく退会することは出来ませんわ。だから、彼女たちは私にそれを突き付けたの……九人の署名と捺印がされた紙を』


 ……そしてまた脳裏に浮かんでくる、昨夜の記憶。


『許可、したんですか』

『無理やり働いてもらっていても……意味がない。そうわたくしは思ってその申し出を認めましたの……会計と書記の子達には、大反対されてしまいましたが……情けないですわ……会長ともあろうものが、直属の執行部すらきちんと統治が行えない、なんて……』

 そう話している間、ずっと会長は苦しそうだった。奥歯を噛みしめて、悔しそうに。責める矛先は、きっと会長自身なんだろう。




『と言っても、聖アルテミス生誕祭の間、業務を手伝っていただく臨時の役員になります。任命期間は、本日より四十五日間。役職は庶務として担当していただきますわ』


 その会長の言葉に、意識が現実へと引き戻される。


「…いったい、誰が任命されるのでしょう?」

「そうだね……まぁ、私達じゃないのは確かだね」


 耳元でそう話しかけられて、肩が跳ね上がりそうになりながらも、ひそひそと三上さんと話をする。その裏側で、昨日の今日で役員になってくれる人を探し当てた会長の手腕に驚く。まぁきっと、三学年の先輩方だったりするのだろうけれど。


 ―――そうとしか考えられないはずなのに、何か嫌な予感がしてしまう。


「それでは、お名前を呼ばれました方は、壇上へとお上がりください」


 なぜならと言えば簡単。

 会長の視線が私たちの方を向いているようにしか、見えなかったから。

 もはやこの距離で、目があっていると自覚してしまうぐらいに。

 そして、微笑みが向けられた瞬間。

「それでは―――二学年、宮水桜さん。そして、同学年の三上佐紀さきさん。あなた方を生徒会役員に任命します」


「―――え」


 思わず、私は立ち上がってしまった。

 そうしてしまった訳は分からないし……その答えは別に、どうでもよかった。


 だってもう、次の瞬間には、


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!?」


 なんて、品の無さ百パーセントの叫び声をあげてしまっていのだから。

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