第7話

 陸は身体をビクッと震わせながら目を覚ました。機内のエコノミー席で決して小さくはない身体を狭いシートに押し込めていた。


 去年の西田との初めての旅行がめちゃめちゃ良かったので、今年も期待していた。西田が海外の出張からそのまま向かうとのことで、今回は現地集合、先に着いている西田が空港まで迎えにきてくれる。


 空港の到着ロビーに着くと、スマートフォンを弄る西田を見つけた。

 「西田さん」

 陸は歩み寄りながら彼の名を呼んだ。すると西田は肩を躍らせて顔を上げて陸を見た。


 「久しぶり」

 西田はスマートフォンを掲げて陸に挨拶した。<久しぶり>というのは本当のことで、西田に会うのは一ヶ月ぶりだった。去年の秋くらいから会う回数が減った。毎週から二週に一度になり、年が明けるとひと月に一度にまで減っていた。


 西田は「仕事が忙しい」と釈明していて、それが証拠にか、会うとめちゃくちゃ濃厚に身体を求められる。


 今回の旅行もそうなるのかな、と考えると身体の中心が静かに熱くなった。


 宿泊先は前回にも泊まったホテルだった。荷物だけ置いて、陸たちは夕食に出かけた。雑踏の中にも関わらず西田は陸の手を握りしめている。言葉は一切交わさない。道すがらタクシーを拾って乗り込んでも、陸の手をギュッと握り、無言のままだった。


 夕食の場所は湖の上に建つレストランで、前回よりも高級感に溢れていた。事前に西田が予約を取ってくれていた席からは夜景を見渡すことができ、夜風が肌をくすぐる。この非日常感に俺の心は解きほぐされた。

 「一層かっこよくなったな」

 とりあえずビールを一口飲んで西田が言った。今年は陸も成人したのでビールを頼んだ。

メニューはすべて西田にまかせ、魚と香草の油鍋、サラダや春巻きが並んだ。


 帰りのタクシーを途中で降り、ナイトマーケットに寄りながらホテルに帰る。

 店先にたわわに実ったように陳列されている品物が懐かしく感じる。騒がしい人々と、まばゆいネオン、熱と湿気。また非日常に戻ってきた。陸たちは歩きながらこっそりキスをした。

 

 朝は窓から漏れ入ってくる大量のエンジン音に眠りを破られた。

 目を開けると、西田が既に着替えまで終わっていて、ベッドの脇の椅子に座っていた。なにやら熱心にスマホを弄っている。

 「……おはようございます」

 陸は寝起きの声で西田に声をかけた。すると、また肩を躍らせた。

 「起きたか!」

 ニッコリと西田は笑った。

 「腹減ってる?」

 「はい」

 「じゃあ、毎度のやつ行こう」

 そう言われて、陸はシーツを剥いで起き上がった。


 朝ごはんのフォーや異様に低い椅子とテーブルに「あぁ懐かしい……」と思わず口に出してしまう。

 「ベトナム、気に入った?」

 「日本に帰ってきても、ベトナム料理の店によく行ってましたよ」

 「そうか、良かった。デート旅行なら欧米の方がロマンチックだろうけど」

 西田さんと来たから良かった、と思わず口に出そうになった。けど、言わない方が良いかな、と直感的に思った。

 

 部屋に戻ったとたん、西田に唇を重ねられた。食後に飲んだコーヒーの甘さを交換するかのように舌を絡める。西田は俺の脇腹からTシャツの中に手を入れたくし上げた。陸はそれに答えるように両手をあげた。西田がTシャツを腕まで脱がすと陸の体臭が鼻をついた。

 「興奮するな」

 西田がぼそっとつぶやいた。

 「西田さんも……」

 陸はそう言いながら彼のポロシャツのボタンを外すと、そこから先は西田が自分で脱いだ。

 キスをしながら自分のベルトのバックルに手をかける。西田も同じようにズボンを脱ごうとしている。ベルトと前のファスナーが降りると自然にズボンがずり落ちた。西田のそれは布一枚越しでもこれでもかと存在を主張していた。汗が吹き出すような熱を感じた陸は西田をベッドに押し倒し、彼のボクサーパンツを荒々しく脱がした。西田と視線を合わせ、そのまま彼自身を口に含んで、唇の柔らかい部分で陰茎をしごいてあげる。西田は肘をついて上体を起こした。陸の顔を見るためだろう。


「……ふっ……」

 カリ首にザラザラした舌の表面を擦り付けると、西田は喘ぎともとれるため息をついた。

「陸のも……出して」

 西田は陸に向かって右腕を伸ばす。陸は西田のモノを解放して上体を起こした。隆起した自身のボクサーパンツを西田に見せつけた後、ゆっくりとパンツを下ろし、両足を抜くと西田に覆い被さった。手を添えずに性器同士をこすり合わせると西田は足を開いてもっと深く触れ合うように陸を誘導した。陸が律動を始め、西田の首筋や胸を唇で愛撫すると西田が快楽に沈んでいくのが分かる。足を開いて小さく喘ぐ西田。この状況が<いつもとは逆>になっていると思うと俺はひどく興奮し律動を速めてしまう。お互いからにじみ出る体液を潤滑油にして快楽を深める。

「あっ…あっ…あっ…」

 律動に合わせるように喘ぐ。扱き合う2つのペニスを観察するように見つめるとひどく興奮し、陸自身の堅さが増したように感じた。


 沸き立つ部屋の外では人々の行き交う声と足音とエンジン音。


 前後に揺さぶりながら西田の肩口に鼻を埋めて匂いをかぐ。性器と、腹と太腿を密着させ、身体全体で西田を感じようと努めた。そうしていると、西田が俺の背中を抱き、頭の匂いをかいでいる。お互いにお互いの匂いをかぎながら身体を揺さぶって快楽に身を沈めた。

「あぁっ……!」

お互い叫ぶように喘いで同時に果てた。


 果てて脱力した身体はしばらく重なったままだった。すき間なく重なっていると、西田の湿った肌の、生々しい感触が全身に感じられる。陸は自分の身体の重さを思い出して、なんとか自分の身を腕で支えながら西田の身体から降りて、隣に身を横たえた。陸の下半身もだらしなく脱力していた。

 

 全身に張り付く汗と熱を外の風が少しずつはがしていく。果ててしばらく経っても呼吸が整わないのが恥ずかしい。だがそれほどに行為に興奮していたのだ。


 すぐ横に視線を移すと西田の下半身が見える。ベッドに沈み込む肉付きのいい足。性器を見ようと陸は半身を起こした。おおかたは陰毛に隠れているが、西田の性器はだらん、と脱力している。陸はまじまじとそれを見つめた。陰毛を触りたい欲が胸中を突き上げたが、直後なので自身をなだめた。


 「そんなに見ないでよ」

 頭上から西田の声がした。見上げると西田が俺を見てニヤケている。

 「触りたいなって、ウズウズしてました」

 俺がそう言うと西田が陸に抱きついてきた。

 「俺も陸に触りたいよ。陸のこと見てたいし、匂いかぎたいし」

 そう言って陸の肩口に鼻を押し付ける。彼の太ももが陸の足の間に入り込む。汗で湿って、柔らかさを増した太ももは陸の劣情を誘う。

 西田は陸の下唇を、柔らかさを味わうように食む。唇を離すと、鼻が付く距離で陸を見つめ、まぶたを親指でなでる。

 「全部覚えていたい。陸のことを」

 この時、陸は単純にその言葉を喜んで聞いた。陸は分からなかったんだ、その言葉の意味を。


 昼食も食べずに、陸たちはホテルの部屋でひたすら繋がっていた。西田は陸の身体に配慮してくれ、一度挿入した以外はバニラセックスに終始した。


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