第3話


 それから10日後に《次》があった。今年初の夏日を記録した日、陸と西田の関係は進んだ。


 ビジネスホテルの一室で昼間からの逢瀬。梅雨に入る前なのに、ねっとりとした西陽が肌を焦がす。


 陸は西田に跨り、両手を握られたまま腰をうねらせていた。


 「太陽の匂いがする」

 対面座位で繋がっている時、日に焼けた陸の肌に鼻をつけながら西田は言う。バイトに明け暮れた夏休みなのに小学生みたいに日に焼けている陸。焼けているところと白いところがあるのがイヤで、暇な時はベランダで焼いてみた。細身の身体がさらに痩せて見える。

 「少年を抱くみたいな罪悪感あるね。かわいいし」

 西田はニヤリと笑った。陸は苦笑するしかなかった。

 「ね、痕つけてもいい?」

 「良いですけど、焼けてるから付きにくいんじゃないですか」

 「少しでも良い。このイケメンはオレのってしるしを付けたい」


 西田は、陸の脇腹や胸の横に吸い付き、時に甘噛みした。優しく噛まれると抱きしめられてるようなせつなさが身体中に走り、さらに欲情した。


 「噛まれるの好き?」

 西田が甘い声で陸に訊く。

 「どうすかね……」

 本当にわからなかった。

 「噛んだ瞬間さらにおっきくなってるよ」

 「フフッ」

 恥ずかしくて笑うしかなかった。


 陸はその日、西田が《手練れ》である事を散々思い知った――西田が、西田の指が、西田のナニが。顔はモブっぽいのに。二度目の逢瀬で俺のスイッチをどんどん見つけ出し、新しいスイッチも陸に教えてくれた。

 「実はずっと可愛いと思っていたんだ」

 事後にベッドに沈み込んでいた陸に西田はささやいた。


 

 マッチングアプリで散々避けていた年上の男。それは自分を守るためだったが、思わぬところで出会ってしまった。


 性を知り始めた者同士での拙い愛撫や、とてつもない緊張感があるセックスも嫌いではなかった。忘れられない経験もいくつかある。


 そしてこの流れ。

 上流から下流へ。

 意思を持つ余裕もなく流されていく。


 そのあとは漂流も、あるのだろうか。

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