第2話
二度目に食事をした時――前回の五千円は今回使われた――店を出た後に陸から手をつないだ。西田が酔ってふらついていたので支えるつもりもあったが、彼の肘を持った時に西田が腰を抱いてきた。陸たちは路地裏になだれこみ、絡み合うように抱擁しキスをした。
「ホテル行こっか?」
唇を合わせたまま西田は訊いた。
「もう帰って寝た方がいいですよ」
しおらしいふりをして俺は答えた。
「大丈夫、歩きながら酔いさますから」
西田は身体を離して歩き始めた。
「せめて水のむかぁ」
道中、西田は自販機を見つけると、ミネラルウオーターを買って一口グビッと飲んだ。ホテルに着くまで、西田は水を少しずつ飲んではいたが、急に酔いが冷めるわけもない。部屋に着いても少しふらついていた西田を見て心配になった陸は一緒に脱衣所に入った。
「優しいな」
西田はワイシャツを脱ぎながら緩んだ顔で微笑んだ。シャツを脱ぐと彼のややだらしない体型があらわになる。お腹が出ているわけではないが、筋肉の凹凸も見えなかった。
西田の裸を見ると、年上の男と寝ようとしている実感が急激に湧きあがる。今まで年上と寝るのが怖くて、マッチングアプリでも同い年くらいの男と会っていた。けどこうしてひょんなことから15歳上の男と裸でいる。陸はなぜか、自分の人生が今やっと始まったような、ゾクゾクした感覚を肌で感じた。早まる鼓動を隠すように、大げさに動いてTシャツの襟を引っ張って脱いだ。
「良いカラダしてるね!」
西田は陸の身体をマジマジと見つめながら、今日一番の大声で言った。確かに西田よりは引き締まって、筋肉も少しはついていると思う。
「なにかやってたの?」
「高校まで水泳をやってました……大学では何もしてなくて……できるだけ走るようにはしてますけど」
陸たちは一緒にバスルームに入り、一つのシャワーを二人で浴びながら触れ合ってキスをした。陸の方が数センチ身長が高いく、西田が陸を見上げてくる。「かわいいな」と、陸は不覚にも思った。
手っ取り早く身体を洗ってバスルームを出る。陸の泡まみれの身体を触ってこないので訊いてみると、身体が塗れていたり、泡がついていると肌や筋肉の触感が曖昧だから触っても仕方がないと言っていた。なんだこの、特徴のない顔とだらしない身体に隠されたエロさは。
バスルームから部屋に移って少し体表が冷やされると、西田の酔いは少し冷めたようだ。陸はバスタオルを腰巻にしベッドの端に座って短い髪をフェイスタオルで拭きあげる。背中に西田からの視線を感じながら。
「女の子にモテるだろ」
西田は陸の背中に投げかけるように言った。まだ多少酔っているだろう彼の、邪気があるか分からない言葉は陸の背骨の際に鮮やかに突き刺さる。
「顔はいいし、背も高いし、身体もいいし」
西田は俺の後ろからベッドの周りをぐるっと歩き、俺の前に立ちはだかった。俺は気にせず答えた。
「モテて得したことなんてないですよ。せいぜい、バレンタインのプレゼントもらう時くらい。俺が興奮したのは女より男の身体で――」
陸の言葉を遮って、西田はゆっくりと彼を押し倒した。陸は驚いて目を見開いたが、欲情した西田の目を見た瞬間に煽られた。
自分の中心に火が点く。
唇が合わさると、舌を絡めとられるまで一瞬だった。陸の口内のあらゆる部分に彼の舌が絡まる。まるで自分の口や舌が性器のように扱われているみたいだ。
西田の舌と唇は、陸の口内から首筋や胸に軌道を残しながら移動した。陸のバスタオルを剥いだ西田の手は陸の手をそれぞれ握りしめ、動けないように拘束される。そのまま鼠蹊部にくちづけをされると身体中の血液が一箇所に集まるのを感じた。その後に起こる変化を感じる間もなく、西田の口内に陸自身が包み込まれた。
蠢く何かに自分のペニスが蹂躙されている。蠢く何かって、西田の舌と唇なのだが。今まで関係を持った若者にはなかった手技。信じられない感触と、品のない水音に陸は限界を感じるが、西田がこうしてくれる間は果てたくない。陸は合間を見て深く呼吸した。
首を起こすと、前後に動く西田の丸い肩が見える。彼と目が合うと、舌を出して舐めるところや先を唇でしごくのを見せつけられた。あぁ、もうダメ。鼓動は早まり、血流は勢いを増す。もう身体もアタマもどうでもよくなる。グズグズになっているのはこの場で陸だけ。そう思うと余計に顔が紅潮した。
不意にトプンッと強めに吸われながら、陸自身が西田の口内から解放されたので、思わず首をあげた。あんなに蹂躙されつつも陸はまだ達していなかった。西田は陸の身体をベッドの奥にずらし、自分もベッドに乗り、膝をついて座った。陸の膝を曲げて股を開かせると、陸の顔を直視しながら陸のペニスを手でしごき始めた。右手で陸のモノ、左手で彼の乳首や睾丸を弄る。陸は喘ぎ声を出さないようにするために顔をひどく歪ませていた。
「声、出してほしいな」
西田が微笑んでつぶやく。陸のモノを扱く右腕はパンプアップされているように見えた。
ローションを手につけ、生き物が蠢くように俺自身に彼の指が絡まる。ムクムクと肉のついた西田の指――今まで陸を抱いた若い男にはないものだ。
陸はその太い指が陸自身を扱くのを見つめる。視線を上に移すと西田が陸の顔を見つめている。ローションと指が弾きあう、睾丸を弄る音は意識的に出しているようで、陸がもっと顔を歪ませるのを望んでいるみたいだ。
陸はたまらなくなって目を閉じ、快楽に身を沈ませると無意識に股をもっと開いてしまった。それに西田が気が付き、より露わになった太腿の付け根をそっと撫でる。
「んっ……あぁっ!!」
陸が呻くと股の方で声が聞こえた。
「ここがいいのか」
西田はローションを足して太腿の付け根と陸のモノを器用に刺激していく。
「あッ……あッ!」
もうどこを触られているのか分からない。タプタプとした音と陸の喘ぎ声だけが部屋に響き、陸の声に応じてローションの音は速度を速めていくのが分かった。
「ぁん!ぁん!ぁん!あぁあぁあぁっ!」――陸は羞恥心のタガを思いっきり外し、声と白濁液を勢いよく吐出した。
しばらくしても陸は呼吸が整わず、ヨーグルトで汚されたバナナみたいにだらしなくベッドに埋もれていた。
「サムライみたいな顔で喘いじゃって、サイコーにかわいかったよ」
西田は陸の隣に寝そべり、俺の真っ黒な前髪を上げるように撫でた。陸は髪も眉毛も真っ黒で、眉は密度が高く彼のアイデンティティと化していた。西田が言うサムライって、往年の時代劇で見るそれだろうな。
陸は力をふり絞って西田ににじり寄った。横顔同士が近づく。
「次は抱いてください」
声にならない声で陸は西田に言った。西田は何も答えない代わりに、陸の頭を抱え込むようにして寄せ、厚い唇を俺の唇に付けたと思ったら口内に舌を滑り込ませてきた。陸もそれに応えようと舌を彼の下に絡ませる。なんかこれ、新しい生殖かなっていうくらい陸たちの舌は絡み合った。
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