第8話 CH-R
「CH-R」
三年ぐらい前の、まだこの世が平和なころのことでした。
友達から、「CH-R」というクルマを買ったのでドライブに行こうという誘いがありました。
ワシは、クルマでどこかに出かけるのが大好きです。しかも人のクルマで運転させて、新車で遠出ができるなんてなおさら嬉しいことでした。こんなおいしい話は滅多にないので、ワシは即座に了解しました。二人でいろいろ考えて、川棚温泉に美味しい瓦そばを食べに行くことで話がまとまりました。ワシは、川棚温泉の「たかせ」の瓦そばが大好きです。ワシは初めて食べたときに「こんなうまいものがこの世にあるのか。」と感激しました。またこの際なので久しぶりに高速道路も走ってみようという話になったので、萩経由で高速使って、下関周りで川棚を目指すことになりました。楽しみじゃのう。ドライブはいくつになっても楽しいものです。ワシは嬉しくて待ち遠しくてたまりませんでした。
次の土曜日に、友達がピカピカのそれこそ下ろしたてのCH-Rに乗ってやってきました 。志を同じとする友が、まったく遠方ではないのですが、久しぶりに来てくれるのは亦楽しからずやで嬉しいものです。ワシは思わず論語の一説を思い出しました。
「久しぶりじゃのう。元気じゃった?」
「お前も元気そうじゃのう。今日は付き合わせてすまんのう。」
「ワシこそ。誘ってくれてありがとうのう。」
さっそく、助手席に乗り込んで出発です。
途中で道の駅に寄って、トイレ休憩してコーヒー買いました。ワシはこんな旅が大好きです。クルマ旅の醍醐味は、なんといっても「自由」なことです。バカな話をしながら、気心の知れた友とお気軽な時間を過ごすのは、ある意味気兼ねしまくりのデートよりも気楽でとても楽しいことです。
「なんでCH-Rを買ったん。」
「安くしてくれたから。」
と超シンプルな答えが返ってきました。
「どれぐらい(値引きを)出してくれたん。」
「プリウスを下取り入れて、追い金〇〇〇万円でええと言われた。」
「ウソー!ホントに。すごいのう。ワシも欲しいのう。」
数年前に「CH-R」出たばっかりの頃は、値引きどころか納車半年待ちが当たり前で、とても人気が高くて、欲しくても買えない状況だったと記憶しているのですが、もうとっくに旬が過ぎて、トヨタ得意の一掃セールでも始まったのでしょうか。あれから二年ぐらしか経っていないのに、もう値引きと即納ですか。「さすがトヨタじゃのう。」とうらやましいやら感心するやらで、話も弾みました。
楽しく話しているうちに、萩を過ぎて、また道の駅に寄って、それから高速に入るために小郡萩道路に向かいました。CH-Rは快調に走っていきます。エアコンはよく効くし、静かだし乗り心地はいいし、ナビもなんかカッコええし、ええクルマじゃのうと思っていました。
長い登りの追い越し車線がありました。一瞬だけ追い越し車線に出て、走行車線にいるマーチをかわして、再び走行車線に戻った瞬間に、すぐ先で旗を振るおっさんを見つけました。そうです。警察でした。どうやらレーダーにつかまったようでした。
「やられた。」
「ウソー。ここは追い越し車線じゃろう。追い越し車線で取り締まりをやるか。ふつう。」
でも普通じゃあない山口県警は、追い越し車線で普通にレーダーをかけていたのでした。
ワシたちは、道を登り切ったところにあったわりと広いパーキングスペースに誘導されました。追い越した瞬間はわりと出ていたような感じがしたので、30キロオーバーの赤切符じゃったらまずいことになるのうと二人で顔をひきつらせていました。
「はいすみません。免許証を持って降りてきてもらえますか。」
「何キロオーバーじゃったですか。」
「22キロオーバーですね、」
「やったー(嬉)。」
友達は、よほど嬉しかったのか、思わずガッツポーズをしてしまいました。
「(捕まって)喜んでいる人を初めて見ました。」
という警察の方のするどい突っ込みがあったので、ワシもその通りだと思いました。それから、手続きが淡々と終わって、すぐに釈放となりました。
友達は青い切符をひらひらさせながら
「不幸中の幸いじゃった。」
と言いました。確かにそうだとワシも思いました。ワシは思わず
~久々の旅に水を差す取り締まり それでもラッキー海の色なり~
と思わず一句詠んでしまいました。そしたら友達が言いました。
「すまんけど、ここから運転してくれんか。」
「ええけど。どうしたん。」
「さっきのショックもあるけど、今度捕まったらシャレにならんけえ。」
「わかった。安全運転で行くけえのう。」
「お前、この辺の道には異常に詳しいけえ。お前なら大丈夫じゃろう。」
「ワシも実は、CH-Rを運転してみたかったんよ。」
ワシはさっそく任意保険の条件を確認をしてから、運転席に乗り込みました。もちろん「CH-R」を運転するのは初めてでした。また、トヨタ車を運転するのは、何十年かぶりのことでした。
運転席に座って、えらいシートが低いなあと思いました。横の部分はもっこりしているわりに、座面が固くて平べったくて、見た目の形状は、32のGT-Rに似ているなあと思いました。いろんなスイッチがいっぱいあって、最近のクルマじゃなあと思いました。そしてさすがトヨタの車。質感がすごい。なんか未来のクルマのように思いました。
ブレーキ踏んで、サイドブレーキを解除して、異常に小さいシフトレバーをDに入れようと思ったら、手ごたえがなくて、まさに電気式の感触です。ワシは間違えそうで使いにくいなあと思ってしまいました。
1800CCのハイブリッドと聞いていました。ようするにプリウスと同じパワートレインということです。よう考えてみたら、この手のエンジンのクルマに乗るのも初めてでした。アクセルを踏むと、思ったよりもずっと加速が良くて、速いのうと感心しました。重心が高そうに見えるのに、けっこうクイックに曲がるのです。そのまま高速に入っても印象は変わらず、よくできたクルマじゃなあと思いました。
「ええクルマじゃのう。」
「そうじゃろう。良く走るし、燃費もええしし。」
「どれくらいいくん。」
「長距離じゃったら20近くいくらしいで。」
「すごいのう。」
でもワシは、走るにつれて、この手のクルマ(SUV)にしては、軽快すぎて、まるで乗用車みたいじゃのうと感じていました。が、何よりの不満は、乗りにくいことでした。運転席が低くて寝そべったような姿勢を余儀なくされて窮屈じゃなあと思いました。この手のクルマって、見晴らしがよくてもっとゆったりしていて、リラックスして乗れるものだと思っていました。それから操縦性も足回りも、クイックでガチガチで、まるでセリカに乗っているような感じがしていました。後ろの席も狭そうだし、荷物もあまり積めそうにないことも「アレっ」と思ったことでした。
ようするに、CH-Rは、SUVの形をしたクーペ。ワシのようにSUVだと思って運転したら、期待外れというか、間違いなく違和感を覚えることでしょう。つまりSUVのスタイルでSUVの機能がない。4WDでもなくて、地上最低高も150mmしかないので、悪路や雪道での走破性能は普通の乗用車と変わらない。つまりSUVとしての特別感や安心感があえて排除されているのです。でも今風で恰好が良くて、おしゃれで押し出しが効いていて、価格の割に質感が高くて燃費も最高で、普通に乗るなら十分満足できるクルマなのです。CH-Rは、まったく新しいコンセプトというか、ワシのような古い人間には理解不能なクルマじゃなあと思いました。
ワシは、このクルマは、どんな人が、何を目的に乗るのだろうと考えました。確かによくできたクルマですが、そういうことが思い浮かばない。あまりクルマにこだわりのない人がファッション(流行)で乗るクルマだなんと考えました。クルマとしての機能はそこそこで、満足するほどではないけれど不満も出ない。普通に走るし燃費もいいし、それこそトヨタというブランドなら間違いないと、そういう安心安全を買うクルマなのだと思いました。
ワシはそれで十分だと思いました。普通の人にとってはそれで十分なのだと思いました。
ワシは、そんなことはまったく口にも顔にも出さず、友達と久しぶりの楽しい時間を過ごしました。だって大きなお世話のいらんことですので。
美味しい瓦そばを堪能し、青切符の罰金があるので、代金はワシが持ちました。帰りに角島大橋を見て、途中でアイスコーヒーを飲んで、写真を撮って、旅を満喫して帰りました。
帰ってから、なぜかとても疲れているのを感じました。久しぶりに長時間運転したから?慣れないクルマを運転したから?それとも歳だから?じゃろうかなどなどいろいろ考えました。ついでに持病の腰痛が出そうだったので、サロンパスを貼って就寝しました。
こうして、久しぶりに友達と楽しい一日を過ごすことができたのですが、初めて運転したCH-Rについて、いろいろと考えさせられたというかいらんことを考えてしまった一日になりました。
コロナが収まったら、また行きたいのう。今度はワシのフォレスターで。
(追記)
誤解のないように言っておきますが、ワシは別にトヨタのクルマがキライだとか、そういうことは一切ありません。もしCH―Rをただでやると言ったら、喜んで貰います。絶対に貰うと思います。
だいたいワシごときの素人が、大トヨタ様を批評するなんて。そんな大それた気持ちは微塵もありませんし、また悪気もまったくありませんのでこらえて(許して)くださいね。ちょっと思ったことを書いただけですので。
(さらにお詫びと訂正)
今になって調べてみたら、本当は「C-HR」でした。
なんかしっくりこないと思ったら間違えておりました。
トヨタ様。重ね重ね申し訳ありませんでした。
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