第267話 白い闇
こういう時はメニュー画面だ。
メニュー画面の項目の中には、地図もあるし、日付は分からなくとも大まかな時間を教えてくれる時計もある。
メニュー画面から地図を呼び出そうとして気づく。メニュー画面が開けない。
このゲーム、一部エリアではシステムに制限がかかるとは聞いていたけれど、ここがそのエリアなのか。
しかし、困った。これでは現在地の把握もできないし、時間の確認もできない。
ログアウトだけならば、しようと思えば可能だが、あれは緊急時専用のものなので、こんなところで使用して後がどうなるか分かったもんじゃない。
今は制限エリアを抜けるまで矢印を信じて進むほかないだろう。
幸い、アイテムポーチは使用可能だったので、空腹に悩まされる心配はない。
おもちゃさんから聞いた話では、かのエリアではメニューの他にアイテムポーチも制限されるということだったので、この場所は少し違うのかもしれない。
そういえば、おもちゃさん曰く、システム制限エリアは死に戻り時によく飛ばされると言っていた。やっぱり、こことはちょっと違う場所なのだろう。
周囲は変わらず白い闇に包まれている。
風の咆哮はいよいよ強くなって、笛の音のような金切り音が幾つも重なって聞こえる。
その音が耳のすぐそばで響いたような気がしてびくりと肩を震わせた。
「きゅっ!」
フードの中で丸まっていたアイギスが悲鳴をあげる。私が急に大きく肩を動かしたことで中にいたアイギスが転がって頭をぶつけたようだ。ごめん、アイギス。
「・・・・風の音だけ聞こえる」
台風でも来てるんじゃないかって思うくらいに激しい風の音がする。
それなのに風の気配は感じない。周囲を覆う霧は全く揺れていないのだ。
たとえるなら、風の強い日の窓際にいる感じ。
吹きすさぶ風の音はすれども己の身体に吹き付けられることはない。
いや、でも、台風の日に家の中にいても、風で窓が軋む感覚というか、家が揺れる感覚がするので完全無風の現状とは違う気もする。
台風を通り越して竜巻でも発生してるんじゃないかって音がする今は特に。
本当に風の音が凄い。
鞭のしなるような鋭い音が四方八方から絶えず鳴り響いている。怖い。なにこれ、すっごく怖い。
私は印籠代わりにバロンを掲げ、矢印を見失わないよう必死に足を動かした。
周囲が濃い霧によって全く見えないために近くにモンスターがいるかどうかも分からないが、バロンさんを掲げ持っている効果か敵に襲われることはないようだ。
モンスターが近づいてくる気配も感じないし、それらしき存在の声も聞こえない。
聞こえるのは風の吹きすさぶ音だけ。目に見えるのは前方を行く矢印の後ろ姿だけだった。
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