第266話 矢印補正
『・・・我に無駄骨を折らせたらどうなるか分かっておろうな?』
バロンは一応、矢印についていくことに納得したようだ。
しかし、その視線は矢印の尻尾に固定されたままで、しかもなにやら物騒なことも言っている。
矢印っ、矢印くん、バロンの納得する場所に連れて行くんだよ。
でないと君の尻尾が危険で危ないからね。そんな呑気に尻尾を揺らしている場合じゃないんだよ。
矢印の案内してくれた先が
矢印の尻尾はおそらく矢印にしか救えないのだ。
霧(いや、そこそこ暑いから蒸気?)の中を矢印の先導で進む。
霧が濃すぎて己の歩いている地面も良く見えない。油断をしたら前方を歩く矢印の姿も見失いそうだ。
矢印が黒色で良かった。アイギスと同じ白色だったら、とっくの昔に見失っていただろう。黒色は霧の中でも目立つからね。
・・・いや、違う、おかしい、隣を歩くバロンの姿も良く見えないのに、なぜ前方を歩く矢印の姿は見えるのだろうか。
距離で言えば、矢印の方が遠い位置にいるのに。矢印だからか?
うん、そうだ。そうに違いない。一瞬、怖いことを考えた思考を振り払うように首を振る。
風の音がする。びゅうびゅうと吹きすさぶ風はかなり強いようだ。
周囲は矢印の姿以外見えない。風の音だけが響いていて他には何も感じられない。
そんな不気味な状況だからか、おかしなことを考えてしまったようだ。
私は不安を紛らわすようにバロンを腕に抱いた。
バロンは姿が見えなかったものの、ちゃんと隣にいたようだ。手を伸ばせば馴染みのある感触がこちらに近寄ってきた。おかげで、簡単に抱き上げることが出来た。
白い闇の中を歩く。
辺りは一層に霧が濃くなり、己の足の先すら良く見えなくなっている。
地面は緩やかな下り坂になっているようで、転びそうで怖い。
そんな中でも矢印の姿は不思議と視認できていた。
前方の矢印がまっすぐ進んでいるため、それを目印に同じように進んでいる。
矢印の通った後に同じように続かないと障害物や段差などがあっても私には見えないので危険なのだ。
白い闇の中にうっすらと浮かび上がる黒い矢印の姿は暗夜の灯のように感じられた。
それにしても、どこまで行くんだろう?
体感ではもうかなりの距離を歩いたように思う。しかし、周囲の景色が見えないので実際にどれくらい歩いたのかは分からない。
時間の感覚も曖昧になってきており、歩きだしてからどれ程経ったのかも分からなくなってしまった。
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