第261話 浦島さんのわんこ


さて、バロンズブートキャンプは終わったが子猫探しは終わっていない。残念ながら探索は続行されるのである。


しかし、残念なことばかりではない。おもちゃさんからの情報によると、北の地で大猫相手に死闘を繰り広げていた探索者たちが解散したらしいのだ。


彼らは何度も死に戻りを経験し、大猫に何度も心を折られながらも勝利した。


そして苦闘の末のその先に目的のものがなかったことに絶望して暫くは生ける屍のように北の地を彷徨っていたらしい。


しかし、その後の闘技大会開催の発表や緊急クエストの発令により、北の大地の地ならしをしている場合ではないと思ったらしく(おもちゃさん曰く、北にならせる大地は存在しないらしいが)、思い思いの地へ散っていったらしい。


だからバロンが突然、今から北に行くなどと言い出しても被害にあう探索者はもういないのだ。


良かった。私の経歴と探索者たちの身の安全は保障された。


けれども、今更本当は南じゃなくて北だったんですなんて言い出せる雰囲気でもないから、このまま南の地で幻の浦島さんの猫を探すよ。


人に虐められて泣いている子猫なんていないし、件の探索者たちと大猫が戦闘していたのは北だけど、私たちは灼熱の大地の探索を続行するよ。



という訳で、私たちはその後も南の地を探索し続け、気がつけば周囲は霧に包まれていた。


あれ?なんかデジャヴ?これでボスモンスターでも出てくれば懐かしさに拍車がかかると言うものだが、出てきたのは黒い犬である。


うん?それはそれで記憶を刺激されるような・・・・・。


真っ黒な犬は鳴くことも吠えることもなく、地面に伏せて小さくなりながら震えている。


その周囲で騒いでいるのは牛らしきもの。鳴き声は牛で間違いないのだが、胴体が蛇なんだよなあ。蛇の身体に牛の足が生えている。


しかも、尻尾が蠍。毒々しい色合いの鋭利な突起がついたくるりと丸を描いたかぎ尻尾がついている。


これが猫の尻尾ならスタンディングオベーションで拍手するなり、すぐ近くでお姿を拝見させていただくなりするのだが、あいにく、蠍は守備範囲外である。


それよりも蠍尻尾の牛に虐められているわんこの方が気になるな。霧に邪魔されていても分かるもふもふ具合だもの。



「・・・・・・バロン」


『なんじゃ?虐められている子猫が見つかったのか?』



虐められている子猫は見つかっていないけれど、虐められているわんこは見つかったよ。


ほら、あそこに、牛に虐められて助けを待っている浦島さんのわんこがいるよ。


浦島さんの猫は幻だけれども、浦島さんのわんこはすぐそこにいたよ。



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