第260話 5時間出しっぱなし


「・・・・・・」


『・・・・・・・』


しばし無言で見つめ合う。その間、バロンさんに動きはない。


前足をちょこんとそろえたお座りの体勢で私の用事が終わるのを待っている。あの足を舐めまわすような下からのアングルで見たい。


・・じゃなくて、バロンさんにレベルが上がり火魔法が取得できるようになるまでブートキャンプを続け、さらに火魔法の特訓を続けるつもりはないようだ。


水魔法も先程見きりを付けられたので特訓しない。物理攻撃、パンチの練習も同様にしないだろう。


つまり、ブートキャンプは終わったのだ!やった!これでスパルタ式訓練から解放される!



「安全地帯の結界もはったし、休憩しよう。そうしよう。暑いからちゃんと水分補給しなきゃ」


「ルイーゼ、急に元気になったね?」



水魔法の新技を披露する際に、危険を察知して私から離れていたアイギスがぴょこぴょこと寄ってくる。


ついでに今日の気分は醸ジュースだと飲み物のリクエストを伝えてきた。


敷物変わりに大人の草履を敷いて、さらにその上に手巾を敷いてアイギスの洋杯に醸ジュースを注ぐ。


自分の分はミルクティーを準備して、飲み物を注ぐ前の空の洋杯を見つめる。


バロンは既にくつろぎモードに移行した私たちを見て諦めたようなため息を吐いた後、醸ジュースをご所望した。



「あ」


『・・・・なんじゃ』



醸ジュースを飲み終えたバロンは、食事後の顔洗いをしている。


その毛は大爆発アフロヘアーから元のさらさらストレートに戻っている。


しかし、アフロヘアーだった感触が残っているのか、己の毛がきちんとさらさらなことを確かめたいのか、バロンの毛繕いをする回数が増えている。


その結果、舌をしまい忘れる回数も増えていた。



アイギスと二人、バロンに教えた方が良いのか、しかしどう伝えたものか、というかいつ伝えようかと話し合っていたが、その舌が醸ジュースを飲んだことでようやく収納された。


今回は5時間出しっぱなしだったな。昼ご飯を挟んでの記録のため、長時間となった。


新記録だ。ご飯を食べた時に一緒に舌もしまわれるかと思ったのに、そのまま、また舌がしまい忘れていたときには驚いたよね。


一度口の中に入ったのに、またすぐに舌が出てくるんだもの。いっそわざとやってるんじゃないかとも思ったよ。



「胃痛国に帰る前にワインを探しに行こうね」


私たちがバロンの舌がいつしまわれるか予想して遊んでいたことをバロンに知られる訳にもいかないので、別の話題を提供する。


南の国はホットワインが主流なようだが、きっと探せばどこかにホットじゃないワインも見つかるはずだ。



『・・・・・子猫の救出が終わったらな』



浦島さんの猫は幻だから、それだと一生、ワインを探しに行けないのだけれども。


バロンはいつ子猫を諦めてくれるのだろうか。秋になる前には終わると良いな。秋には西で鉱物狩りをする予定だから。



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