第258話 己を護れるのは己だけ
「本当に上がったんだよ!証拠に、ほら・・・新しく覚えた技だよ!」
そう言って、バロンに水魔法の新技を披露する。
洋杯一杯から量の増えた水が私の目の前に集まり、多量の水泡を含みながらくるくると回る。
バロンほどの大きさになった水はぺしゃりと弾けて、平たく伸び、私を包み込む。
傍から見たら流動性のあるモンスターに襲われたように見えただろう。私から見たら、視界いっぱいに水が広がってまるで突然波にのまれたようだった。
「!?・・・・・?」
あれ?これ、こんな技だったの?
いや対象の選択肢の中にモンスターが入っていなくて、私かバロンかアイギスしかなかった時点でおかしいとは思ったけれども。
おかしいな?攻撃に使えそうな気配がまったくないぞ。
『・・・・痛みは?』
「全然・・・・・呼吸もできるよ」
現在の私は薄い水の膜に包まれた状態だが、息苦しさなどは全然感じない。
水に濡れた感触もなく、周囲の暑さも水の膜によって遠ざかった今はいっそ快適なくらいだ。
涼しい~。これは探してた暑さ対策に丁度良い技かもしれない。
『・・・・・・・・・・・・』
水の膜の中で快適そうに寛ぐ私をバロンが無言で見つめてくる。
いや、あの、そんな目で見てくるけど、バロンさん。これ、水魔法のレベルが二つも上がって覚えた技なのよ。
攻撃力は無さそうだけど、きっとすごい技なのよ。だから、
そんなすぐ目の前にある玩具さえもまともに捕まえられず、空振りしまくる子猫を見るような目で見ないで。
目を瞑ったまま見当違いの場所を一生懸命叩いている子猫に向けるような呆れた眼差しはやめて。
『・・・・・他の魔法を覚えられるようにはなったか?』
水魔法にも見きりをつけられた!
バロンは私の水魔法をいくら鍛えても攻撃に使えるようになることはないと判断したようだ。
うん。私もなんか、そんな気がしてきた。
そして、(攻撃には)使えない水魔法に見きりをつけて、別の魔法を覚えさせる作戦に変更したようだ。
ここで投擲とか頭突きとかこぶしなどの物理攻撃系のスキルを勧めないあたり、バロンも分かっているな。
これらのスキルを取得しなくても、物を投げたり対象を殴ったりなどもできるが、スキル持ちとそれ以外の人では攻撃の威力が異なる。
たとえば身長と体格がそこまで変わりないサルミアッキさんとリーダーさんだが、同じように張り扇で相手をどついた際の威力はリーダーさんの方が強いらしい。
リーダーさんは棒術というスキルを持っており、これが張り扇の威力を上げているそうだ。
また、該当スキルを持っているか否かで攻撃が相手に当たる確率も上がるらしい。
回復職であるリーダーさんが攻撃スキルを持っていることを不思議に思ったが、回復のために味方をどつく際に当たる確率を上げるためだったようだ。
私もリーダーさんを見習って棒術の取得をすべきかと相談してみたけれども、リーダーさんには「そんなものとらなくても当たるから大丈夫だよ!」と笑われてしまった。
たしかに、今まで医術も応急手当も失敗したことはない。
しかし、それならば何故リーダーさんは棒術を取得したのだろうか。
その答えも、もちろん聞いてある。リーダーさんは「いざと言う時、己を護れるのは己だけだ・・・」と言っていたよ。
・・・・回復職でも自衛手段はあった方が良いんだね。リーダーさんの宇宙の彼方を見つめるような遠い目がそれを物語っていたよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます