第255話 就寝前のストレッチ


野宿と言えば、探索者で野宿をする人はあまりいないようだ。


現在は山越え谷越え、幾つもの湖(のように見えたが湯気らしきものが出ていたのでおそらく温泉)を通りすぎてかなり奥まで進んでいる。


そのため周囲に探索者の姿は無くなったが、ここまで来る間にはたくさんの探索者がいた。


中にはログアウトを急ぐ探索者もおり、そんな彼らは野宿を選択していなかった。


では、どうするのか。私が目撃した一例をあげると、こうだ。



「急げ!制限時間がちかいぞ!」


「歩いて戻ってる時間はないな・・・・・」


なんて話していた彼らは、やおら各々の武器を構えて自らに突き立てた。


思わず二度見するほど手慣れた様子の自刃であった。カンパーイなんて言い出しそうなノリで集団自殺した彼らはすぐに光の粒子となって消えていった。


それを呆然と見送る私たち。対称的に何時もどおり元気に走り回る周囲のモンスター達。


彼らの残滓さえなかったら、今見た光景を幻覚だったと判断しただろう。


残念ながらきらきらと輝く粒子のせいで見なかったことにはできなかったが。



「え?なに?私は何を見たの・・・・・?」


「探索者怖い・・・人間怖い・・・」


『・・・・・・』



後でおもちゃさんに聞いたのだが、探索者にとってログアウト前の死に戻りは近くに泊まれそうな施設がなく、村や街まで戻る時間もない時の常用手段らしい。


死に戻っても各種デバフがつくだけで、ログアウト前なら問題はないので彼らは気軽に自刃するらしい。


デバフはログアウト中に解除されるからね。・・・探索者怖い。


時々、思いもよらない場所に送られるらしいけれど、もう一回死に戻れば良いだけだから問題ないらしい。(産地を持っていかれるが大丈夫だ、問題ないとかおもちゃさんは言っていた。意味が分からない。)・・・探索者ヤバい。



ちなみに、おもちゃさんたちは別の手段があるため、ログアウト前の死に戻りはしないらしい。


そんなに気軽に自刃はしないとのこと。良かった。



そして安心してほしい、就寝前のストレッチ感覚で死に戻りをする他の探索者たちとは違って、私はちゃんと安全対策をした上で野宿によりログアウトした。


本当は村や風車小屋のような一夜を明かせる建物があれば良かったのだが、南の国に入ってから一度も風車小屋を見ていない。


村はあるだが、風車小屋もあった胃痛国のようにログアウトしたい時に都合よく見つけることはできなかった。


しかし、私はこんな事もあろうかとセドネフさんから事前に寝床の周囲を安全地帯にする方法を教えてもらっていた。


だから私は街や村の外でも安全に就寝できるし、他の探索者たちのようにログアウト前の自刃もいらない。


モンスターの蔓延るフィールドでも安全にログアウトできるのだ。

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