第254話 バロンズブートキャンプは終わらない


『・・・・腕力は無理だな。あまりにも不才だ。これ以上は時間の無駄か・・・』


そのバロンの言葉を聞いて、私はようやくバロンの地獄の特訓が終わると思った。


もう動かないモンスターとそれ以上に動かないHPバーを見なくても済むと思ったのだ。


けれど、バロンは次の獲物を持ってきてさらに言葉を続けた。



『次は魔法攻撃だ。水魔法を持っていただろう。ほれ、使え』


私はその後、数時間ずっと瀕死のモンスター相手に終わらない水遊びをしている。


わんこそばよろしく次々モンスターが追加されていく。わんこそばなら蓋をすれば終わるのにモンスターそばには終わりがない。


誰か蓋をください。疲れたの。水遊びはもうしたくない。誰かタスケテ。



「バローン。もう、MPがないよ~。水魔法撃てないよ~」


『何を言っておる。まだ余裕だろう。それに、あれだ、あの魔法薬とやらを飲めばまだまだいけるだろう』


「・・・・・」



MP切れを言い訳にして終わらせようとしたが、バロンには効かなかった。


私のMPはばっちり把握されていた。それだけでなく、ポーチの中のポーションまでばれている。


本当にMP切れを起こしてもポーション飲んで続けさせられそうだ。どうしよう。


ご飯休憩はさっき使った。日が暮れるまでもまだ時間がある。


お天道様はまだまだ高い位置で照り輝いている。今、眠ります、ログアウトしますと言っても信じてもらえないだろう。


と言うか、ログアウトしても、次に戻ってきた時に続きをさせられそうだ。



いや、すでに実際に特訓が再開されることは実証されている。


モンスターを叩き続けることに疲れた私は一度、現実世界に逃げた。


いつの間にか手に入れていた寝袋らしきものを大人の草履の上に敷いて野宿を決行した。


地面に敷いた敷物代わりの大人の草履は期待していたような大人なデザインには見えず、普通の藁草履だった。


よく昔話などに出てくるような藁で編まれた草履である。


ただ1 つ尋常ではなかったのは大きさだけだ。大人の草履は私やバロン達が大の字で寝転んでも余裕がある程、大きかった。超々BIGな草履だった。


草履は寝転ぶとい草の匂いがした。その薫りに包まれながら眠りにつき、少しの間現実世界へ避難した私はほとぼりが冷めただろう頃に此方へ戻ってきた。


バロンは起き上がった私へ開口一番にこう言った。



『戻ったか。では、訓練を再開するぞ!』



野宿の仕方をセドネフさんに聞いており、安全は保証されていたとはいえ、初めての野宿である。


不安を押し殺してログアウトした成果は得られなかった。


日をまたいだところでバロンズブートキャンプは終わらなかったのだ。

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