第253話 ほれ、叩け
しばらく進むと他の探索者の姿が散見されるようになった。
西や東は何故だか探索者の姿が少なかったけれど、南には結構来ているようだ。
モンスター相手に戦闘を繰り広げる集団がちらほらと見られるようになる。
こうなるとバロンがモンスターを殲滅しながら進むことはできない。他の人が戦っている敵を横取りしたらいけないからだ。
バロンさんも以前の話し合いでそこらへんは理解してくれている。
数の増えた探索者の姿に不満そうな様子で尾を揺らしたバロンは狩っても問題ないモンスターを判断しながら叩くのも面倒だと思ったのかもしれない。フィールドを駆け回ることは止め、私たちの隣をゆっくりと歩み始めた。
何時ものバロンなら探索者やその相手モンスターも障害物に見立てて遊ぶのだが、今回の目的はあくまで猫探しである。
遊びに夢中になって浦島さんの猫を見逃したらいけないと考えたのだろう。
バロンは私たちの隣を真剣な眼差しで子猫を探し歩いていた。わたしはつまらなそうに揺れるバロンの尻尾を凝視しながら進んだ。
風向きが変わったのは、おそらくこの後だ。
子猫を探して牛歩で探索していたバロンさんであったが、捜索にはすぐに飽きた。
出てくるモンスターも代わり映えしないし、他の探索者がいるため思う存分に遊べないし、子猫は影も形もないしで飽きたバロンは近くにいるモンスターを死なないギリギリのところで手加減して叩く遊びを始めた。
猫がよくやる獲物を瀕死にして放置する遊びである。
猫の戦利品に死んでいると思って不用意に近づいたら実は生きてて大惨事と言うことはよくことである。
夏場の蝉とか心臓に悪いので本当にやめてほしい。私が何度騙されて絶叫したことか。
鳥の雛も困る。血まみれのまま部屋中飛び回られる恐怖よ。
とにかく、そんな風にひとしきり放置して遊んだバロンはモンスターを瀕死にとどめる手加減を学んだようだ。
バロンは叩くモンスターのほぼすべてを瀕死にすることができるようになった。
手加減を覚えたバロンは私の目の前に瀕死のモンスターを差し出してこう言った。
『ほれ、叩け。訓練じゃ。・・・・・おぬしはあまりにも弱すぎる。』
どうやら暇つぶしついでに私の訓練をすることにしたらしい。
バロンさんは東に向かう際、私が蚊相手に大苦戦していたことを覚えていたようだ。
バロンは子猫を探す片手間で適度に弱らせた獲物を持ってきて、私に攻撃するように指示してきた。
初めは、ぽかぽかと叩くように言われたが、数刻もすればあまりにも変わらない私の攻撃力に呆れた様子だった。
バロンは『もっと抉るように打て』『腰のはいりが甘い』『足腰に力を入れろ』と一通り指示をした後、もはやこれ以上どうしようもないなと見切りをつけて、物理攻撃は諦めた。
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