第252話 ホットじゃないワイン


その後、バロンの好物がワインだと以前聞いたことを思い出して、ワインを買っていくかバロンに尋ねたが、バロンの答えは「冷たいものがあるなら」だった。


うん。この国ホットワインが主流らしいからね。私は冷たいワインが買える場所を受付で聞いてみたよ。


受付の人には物好きを見るような目で見られたよ。ホットじゃないワインを欲しがるなんて信じられないって顔だったよ。・・・解せぬ。



ホットじゃないワインを探すのは時間がかかると見たバロンはすぐに幻の浦島さんの猫、もとい、いじめられている(とバロンは思っている)猫探索に意識を切り替えた。


『ワインは何時でも良い。それよりも早く子猫を見つけてやらねば』


そう言って私を急かしたバロンさんには、まだ私にバロンズブートキャンプを施しそうな雰囲気はなかった。



南の国周辺の探索は西側から始めた。この熱射の国は東西南北それぞれに門がある。


私たちが泊まった宿からは東側の門が一番近い。それでも反対側の西門から出発したのはアイギスの意見を聞いたからだ。


明確な理由があるわけではないけれど、方角決めなどはアイギスに頼むと良いことが起こりそうな気がしたのだ。


だから私たちは街を横断し、西門へ向かった。


その西門の近くには森があった。門から出て直ぐそこに森があったのではない。街の中に森があったのである。


白っぽい樹皮で背の高い木々が並び立つ森の中は街中よりも涼しかった。


気温の違いを不思議に思いながらも木立をぬけた先では見覚えのある青い炎を見つけた。


宿の部屋にもあった一件暖房器具に見える冷房器具だ。「この辺りは涼しいね。マイナスイオンってやつかな」とか会話していた矢先のことである。


冷房器具で森を冷やすとは斬新なアイデアだ。森の木は寒い地域に自生する白樺に見えたので、木が暑さで火照らないように置いてあったのかもしれない。


とりあえず見つけた冷房器具にはりついたアイギスと私を後目に先を急ぐバロンさんは、やはりまだ私にブートキャンプを課しそうには見えなかった。



西門を出てすぐに、バロンは解き放たれた。


南の高台や山道とは出現するモンスターが違うねと門の傍で話し合う私たちを置き去りにして、目につくモンスターを殲滅していった。


幸い、他の探索者は見える範囲に居なかったので、バロンは思う存分、モンスターを駆逐した。


私とアイギスはモンスターの見当たらないフィールドをのんびりと散策し、バロンは私たちの進みに合わせながらモンスターを狩り尽くしながら進んでいた。


うん。この時点でも、まだブートキャンプの気配はない。


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