第251話 バロンズブートキャンプ


しかし、おもちゃさんからのメッセージの終わりあたり、最後の方の様子がおかしいような。


なんだか、やけに必死な様子だ。文章ながらも鬼気迫る様子が感じられる。・・・・おもちゃさん、まさか。


いや、いくらおもちゃさんでも世界に影響しそうなことはやらかさないよね?


おもちゃさんだって世界が終わるボタンを渡されたら自重するはず。開けてはならない箱を開けるわけないよ。



とりあえず、おもちゃさんへは「別件で忙しいので片手間でも良ければ」と返信する。


おもちゃさんには色々とお世話になっている。東へ向かう道中では散々迷惑をかけたし、掲示板の情報や探索者しか知りそうにないことを私に教えてくれている。


大変お世話になっているおもちゃさんからの頼みだ。すっごく手伝いたい、手伝いたいんだけど・・・・・。



「ほれ、はやく叩かんか」


「イエスマム・・・・」



今、バロンによるバロンズブートキャンプの最中なんだよね。


暫く前からずっと、バロンによるスパルタ特訓を受けてるの。バロンが弱らせた獲物に延々攻撃を繰り返させられてるの。


一定時間たったらバロンがとどめをさして、また新しい瀕死の獲物へ私が効いてる気がしない拳を奮う。ずっと、その繰り返し。


少し前から物理攻撃には見きりをつけられて水魔法の訓練に入ったよ。


弱った獲物にずっとぱしゃぱしゃ水かけするの。水をかけられてもピクリとも動かない敵の表皮を湿らせている。


時々確認する敵の体力は絶望しそうな程、不動だ。山のごとく動かない。


いや、この世界の山は動くのか?東で山が飛ぶ光景を見たような・・・・・奴のことは忘れよう。


とにかく、私はずっと、そこで固定されているように動かない残存体力のパーセンテージを睨みながらも敵に水をかけ続けている。


水をかけ続けたからと言って、敵が体温を奪われて状態異常になるとか、大量の水で溺れさせられるなんてことは起こらない。


ただ、ただ、敵の表皮と地面を湿らせるだけである。・・・何してるんだろう、私。



なんでこんなことになっているのかな。


南の大国に着いた最初の朝、探索に出掛けた時にはまだ、こんな事にはなってなかったのにな。いつの間にこんな事態になったのだろうか。


原因究明のため、バロンのアフロヘアーを宥めすかして眠った次の日から遡って思い返してみよう。



あの日、目覚めて目を開けた私の目前には黒猫のドアップがあった。


気合い十分なバロンさんは早く子猫を探しに行くぞと私を急かして朝食も食べずに出かけようとしていた。


私はそんなバロンへ必死に空腹を訴えかけて一階のレストランであったかい食事に舌鼓みを打った。


いや、舌の上には乗せたけれど、味は分からなかったな。だって、レストランがすっごく豪華で緊張したんだもの。


シャンデリアきらきらで天井の高いレストランでの食事は落ち着かない。


アイギスと二人、緊張で固くなりながら食べた食事は暖かかった記憶しかない。


私は探索前に気力を減少させ、舌を少し火傷して体力も減らした。



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