第236話 スニーキングミッション
彼らは何故これほどまでに身体を温めたがるのか。
冬の予行演習?冬の前に夏の準備が必要だと思うけど。よしんば冬の予行演習をするとしても、もっと時期を考えるべきだと思うけど。
何故、夏に入ろうかと言うこの時期に冬真っ盛りにしそうなことをするのか。
そんなにこの国の冬は寒いの?
「え?冬の気温?・・・・たしか晩春の胃痛国と同じくらいだって言われてたと思うけど・・・」
寒くなかった!全然、寒くなかったよ!
いや、本当になんでこの国の人たちは身体を温めることに全力なの?
凍える冬なんて経験したことないでしょ。むしろ、暑さで死にそうじゃないか。
「ついたよ。ここがおすすめの宿。値段はお手ごろだし、大通りも近いし、食事も美味しい。なにより、女の子が一人で止まっても安心だ」
セドネフさんの示す先には乳白色の壁をしたお洒落な建物がある。
乳白色の壁を白百合色の彫刻が彩り、屋根の薄く青みがかった墨色がぼやけてしまいそうな全体を惹き染めてまとめている。
お洒落な外観は高そうに見えるけれども、ここまで歩いてきた建物のほとんどが色とりどりでお洒落だった。
この国ではこれが標準装備なのかな。
「冒険者ギルドは、あそこ・・・ほら、丸い青い屋根の見える・・あれが冒険者ギルドだよ。買い物をするなら公園を通り抜けた反対側の通りに大きな建物があるから。あそこに行けば何でもそろうと思うよ」
「ありがとうございます」
はたして私は今回、この国の冒険者ギルドに立ち寄ることはできるのか。
お土産も買うことが出来るか分からないな。期待を込めてセドネフさんに教えてもらったけれども。
遠目にも白亜の壁と南の海のような碧色のコントラストが美しい冒険者ギルドに訪れてみたい気持ちはあるが、すべてはセドネフさんを斜め後ろから監視している黒猫次第である。
バロンさん。なんでスニーキングミッションみたいな動きで、ずっとセドネフさんを付け回してるの?新しい遊び?
宿の受付をすませて、案内された部屋へと入る。
室内は落ち着いた色合いで統一されている。木製の家具が多く、布製の長椅子にも木の足がついている。
そして正面に暖炉。装飾の優雅な硝子戸の奥で、ぱちぱちと音を立てて青白い炎が燃えている。
「なんで暖炉!?」
この暑いのに暖房器具なんて正気かと近づいた空気が涼しい。
硝子戸にそっと触れてみれば、真冬に結露をおこした硝子のように冷たい。
そういえば、室内に入ってからは耐熱耐寒装備をもってしても防げなかった暑さを感じていない。
もしや、この暖炉は暖房器具ではなく、冷房器具なのか。
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