第235話 メディック!メディック!


「あっ」


この国の人たちには熱中症に対する危機意識が足りないと悶々と考えていたら、千鳥足で前方を歩いていた人が倒れた。


私たちが駆け寄るよりも先に周囲の人々が慣れた様子で男性を担ぎ上げて、近くの建物に押し込んだ。


喧騒はすぐに止み、大通りは日常を取り戻す。先程の倒れた男性は見間違いだったのではないかと思うほど、あっという間に元通りだ。


あの人は酔っ払いだったのだろうか。大丈夫かな。



「・・・熱中症だね。よくあることだよ」


「は・・・えっ・・・・!?」



だから熱中症対策を怠るなと・・・っ!


先程の男性は千鳥足になっていたということは意識の混濁が見られるほどに症状が進んでいるということだろうか。


すぐに上がりすぎた体温を冷まし、水分と塩分を取った方が良いと思われる。


場合によっては救急車を呼ぶ必要があるだろう。この世界に救急車があるかは知らないけれど。


こういう時はメディック!メディック!衛生兵!衛生兵!と叫ぶのだろうか。



「建物の中は快適な温度が保たれているから大丈夫だよ。たぶん、さっきの男の人もすぐに意識を取り戻して、今頃はオレンジジュースかレモンジュースを飲んでるんじゃないかな」



セドネフさんは男性の消えて行った建物とセドネフさんを繰り返し何度も見ている私を安心させるように説明してくれた。


ちなみに、ジュースはホットじゃないらしい。キンキンに冷えてはいない、常温だけれども、ホットではないらしい。


・・・初めからそっちを呑めばよいのに。真夏のような炎天下に温泉の中でホットチョコ飲みながらアツアツのグラタンを食べるのは無茶しすぎだよ。


先程の男性は反省して涼しい室内で脇とか首とかをしっかり冷やし、水分と塩分を純分に補給してほしい。


でも、オレンジジュースとレモンジュースだけでは塩分が足りないだろうから、追加で岩塩でも舐めてるのかな。


と、思ったら、セドネフさん曰く、ジュースの中に塩が入ってるらしい。


ソルティレモンとソルティオレンジなのだとか。うん。そうやって倒れた後の処置を充実させているなら、倒れる前の対策にももっと力を入れれば良いのに。



ふらふらな男性が出てきたのは大通りの隣にずっと続いている公園からだった。


現在の私たちは噴水らしきもののあった広場から大通りに出て、通り沿いを歩いているけれど、隣には依然として公園が見えている。随分と細長い公園のようだ。


その公園から視界を遮るように生えている木々を抜けて男性は出てきた。


男性の出てきた木々の奥に視線を凝らせば、予想通りに湯気が見える。たぶん温泉なんだろうな。


人々の賑わいが聞こえる。湯につかる人の姿は花壇の花に隠れて見えないが、手に洋杯を持って水着姿で歩く人の姿は見えた。


洋杯からも湯気があがっている。


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