第234話 熱中症待ったなし
「そう。国中に温泉が大量にあるんだよ。中には空飛ぶ温泉なんてものもあってねぇ・・・・この国に来たら一度は入ってみるといいよ。この国一番の有名所だから」
「えぇ・・・・・・」
この暑さの中で温泉に入ったらそれこそ国名の通りに熱中症になってしまうんじゃないかな。
いや、そんなことはみんな分かってるだろうから、ちゃんと熱中症対策もしているよね。
水分補給もしっかりしているはずだ。だから、きっと、大丈夫。心配いらないよね?
噴水・・・噴水?出ているのはお湯だけれどもH2Oが出ていることには変わりないから噴水か?のある公園から大通りに出て、セドネフさんお勧めの宿へと向かう。
道すがら宿で食べられる美味しい料理の話を聞く。
「おすすめ料理はストゥファートだよ。具材の旨味を閉じ込めたコクととろみのあるスープが最高なんだ。ストゥファートを使った料理、クットゥラも美味しいよ」
「へぇ」
「クットゥラは小麦粉でとろみをつけたミルクベースのスープを耐熱皿に入れて表面に焦げ目がつくまで焼くんだ。沸騰しそうな程、熱くて、この国らしい料理だよ」
「わー、美味しそうですねー」
・・・それって、グラタンじゃない?
寒いところで食べたら美味しいだろうなーと思うけれど、この地獄のように暑い国で食べるには向いてないんじゃないかなー、と思うのは私だけだろうか。
グラタンは冬に食べるものであって、夏には食べたくないと思うのは私だけ?
夏に炬燵に入って鍋を食べる猛者もいるらしいから、その辺は好みの問題なのだろうか。
「温泉に浸かりながらアツアツのクットゥラを食べるのがこの国の流儀らしいよ」
「わー、熱中症待ったなしですねー」
我慢大会か!?
耐熱耐寒のローブを着ていても汗が止まらないこの国で身体の芯から温めてくれそうなグラタンを食す。どこの我慢大会だろうか。
そんなに熱中症になりたいのだろうか、この国の人々は。
腰痛国のジェラートが恋しいよぅ。冷たいものが欲しい。きんきんに冷えた飲み物とかはないのだろうか。
「飲み物?飲み物はホットワインかホットチョコが主流だけど・・・・」
冷やして!火照った身体にこれ以上温かいものを摂取させるのはやめてください。
暑すぎて、本当に熱中症になってしまいそうです。
もう、熱いものは良いよ。十分だよ。冷たいものが欲しいよ。
聞いているだけで暑くなってくるような話を続けるセドネフさんは鮮やかな青い服に赤銅色の刺繍が施された涼し気な衣装に身を包んでいる。
服自体は長袖だが、使用されている布自身は風通しのよさそうな薄布であるため、衣装だけを見れば涼しそうだ。
セドネフさん以外の街を歩く人々も着ている服は涼しげである。
熱中症待ったなしなお国柄だが、衣装だけは熱中症対策をしているようだ。
最後の砦は守られていて良かった。水着で往来を闊歩している人々を眺めながらため息を吐く。
「ああ。この国ではすぐに温泉に入れるように普段から水着で過ごす人が多いんだ」
水着を凝視する私に気が付いたセドネフさんが説明してくれた。
「僕もこの服の下は水着だよ。上着さえ脱げばいつでも温泉に入れる格好さ!」
熱中症対策として涼し気な格好をしているのかと思ったのに、結局、温泉のための装いだった。
温泉で暑くなった身体を少しでも冷ますためだと思ったのに。
この国の人たちは一度、自分たちの国の名前としっかり向き合うべきだと思う。
そんなに熱中症になりたいのか。熱中症を舐めると危ないんだぞ。日本でも毎年、死者が出ているというのに。
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