第231話 女神さまは足湯中


『・・・・・わかった』


バロンの説得に成功し、改めて南の大国の街並みに目を向けた。



ここは緑豊かな公園のようだ。全方位が背の高い気に覆われている。


その木の奥にうっすらと建物らしき影が見えるので、街中ではあるようだ。


東のように森の中ではなくて良かった。


背後を振り返れば銅像がある。男の人の銅像の前に一段低くして女の人の銅像が立っている。


女性は女神さまのような恰好をしており、その足元には水が流れている。


どうやら噴水になっているようだ。女神さまの台座の下、白いミストのようなものを上げながらたまる水を眺めながら思う。



「・・・・・暑い!」


この国についてから、耐熱耐寒装備をもってしても誤魔化しきれない暑さが私を襲っている。


羽織っているローブを脱ぎたい衝動に駆られるが、このローブには暑さを和らげる効果がある。ローブを脱ぐのは逆効果だろう。



「・・・でも、やっぱり、暑い!」


しかし、ローブを脱いでも下は長袖である。しかも、私、ひざ丈スカートの下はタイツだ。


このゲームでは初期装備のデザインが幾つかあって、私はその中から一番大人っぽいと思ったひざ丈スカートを選んだのだが、こんなことならショートパンツにしておくべきだった。


いや、ショートパンツも下にタイツはいてたな。初期装備はほとんどが肌の露出が少ない安心設計だった。半袖はあってもノースリーブはなかったし。


結局、どれを選んでも今暑い思いをするはめになることは変わらなかったのだ。


過去を思い返しても現状は変わらない。今を乗り切る方法を考えよう。


そうだ。目の前のミストに手をかざせば少しは涼めるかもしれない。



「って、熱っつい!?」


ミストだと思っていたものは湯気でした。


流れている水も水じゃなくてお湯だ。女神さまは足湯中だったのだ。



「君!大丈夫かい!?」


思わぬ熱さに叫んだ私へ心配そうな声がかかる。声の主は若そうな男性のようだ。


良く言えば優しそう、言葉を選ばなければ虫も殺せなさそうな雰囲気の男性だ。


驚きに数瞬固まってしまい返答が遅れた私へ悲壮な表情を青ざめて男性が駆け寄ってくる。



「もしかして、怪我を!?」


「だ、大丈夫です。怪我はありません。吃驚しただけ・・・・」



私の返事に男性は心の底から安堵したようなため息を吐く。



「良かった・・・・僕はセドネフ。・・・君は旅人かい?」


「アン・・・胃痛国から来ました。ルイーゼです」



アン・・・何とかの正式名称を言おうとしたけれど、思い出せなかったので探索者の間で共有される通称を告げた。


相手が探索者ならば通じるけれども、目の前の男性にも分かってもらえるだろうか。


以前、クロウさんから別の言い方を聞いたような記憶があるけれど、何だったっけ。



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