第229話 バロン、こんな姿になって・・・!
『・・・・大事ない。かすり傷じゃ』
焦燥感に押しつぶされそうになった頃に、土から顔を出したミーアキャットのようにひょっこりとバロンが現れた。
バロンは自慢の毛皮に付いた土を身震いで払い落としている。
現実の土ならしつこいくらいこびりついて払ったくらいでは落ちないが、この世界の土はそれだけできれいに落ちる。
バロンは柴犬ドリルのように身体を震わせている。
いつもならそのあまりにも可愛らしい姿に打ち震えるところだが、今の私は予想外の姿で現れたバロンに絶句して言葉が出ない。
何とか声を絞り出し、かろうじて、変わり果てたバロンに本人確認をする。
「バ、バロン・・・・・?」
『どうした?早く南へ進むぞ』
バロンさんはこんな状況でも南へ強行する姿勢を止めない。
しかし、私は胸中を吹き荒れる嵐のせいで、それどころではない。
南の大国への転移を促すウィンドウとかいつの間にかボスフィールドから通常フィールドに切り替わっていることとか遠くの方に出現し始めたモンスターのこととか、すべてが意識の外に追い出されている。
そんなことよりも気にかけるべき重要な問題が私にはあるのだ。
「こ、こんな姿になって・・・・っ!」
『かすり傷だが?』
バロンのあんまりな姿に泣き崩れた私の頭をバロンが撫でてくれた。
少し平静を取り戻す。
しかし、バロンは数秒で飽きて己の身体を毛繕いしはじめた。
私の頭が足を置くのにちょうど良い位置だったらしく、天に向かって伸ばされた右後足が頭部にそえられている。
これはこれでご褒美だ。いつもアイギス(未だ気絶中)がしてくれるナデナデとは違う良さがある。
毛繕いの邪魔にならないよう気を付けながら、必死に顔と視線を動かして頭上に乗せられたおみ足を鑑賞する。
素晴らしき曲線美だ。細くしなやかな脚だが、太もも部分はしっかりと筋肉がついている。
筋肉と言っても硬いものではなく、猫らしく柔軟性に富んだ柔らかな筋肉だ。
その筋肉が生み出す曲線美がなんとも美しい。やはり猫の足は素晴らしい。
前足のあのまるんとした愛らしさも最高だが、後ろ足のちょっとへにゃった裏側も好きだ。
肉球も素敵だが、かかと部分が少し硬くなってる感じも素晴らしい。
今はなんかちょっと焦げてるけど。焦げてるっていうかアフロになってるけれども。
「・・・・・・・っ」
なんだか、また泣けてきた。バロン、こんな姿になって・・・!
バロンのあまりに悲惨な姿に涙で視界がにじむ。
バロンのいつもはさらさらつやつやの長毛が見るも無残なアフロへと変貌してしまっている。
バロンの長毛でありながらもくびれの見える美しいフォルムがアフロによって丸くなっている。
毛繕いをしても元に戻る様子がない。私の至高のもふさらヘアーが・・・・。
寝る前に毎日櫛梳きを欠かさず、いつもさらさらな美しい体毛が・・・・。
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