第228話 ヒット(されては)アウェイ
私の祈りが届いたのか磯巾着が下降してくる。
昔、飼い猫が燕の巣から雛を拝借して親鳥を怒らせたことがあったのだけれども、磯巾着はあの時の親鳥を彷彿とさせる動きだ。
急速落下、頭を下にして弾丸のように勢いよく降下してくる。
その勢いを攻撃に乗せ、鋭い一撃を猫に叩きこむ。
飼い猫はあれに懲りて燕を襲わなくなったが、バロンは逆に相手の勢いを利用して己の攻撃の威力を上げたようだ。
強烈な猫パンチが襲ってきた頭に炸裂する。
磯巾着はヒット&アウェイ作戦に移行したようだ。素早く上空へと逃れ、息つく間もなく降下してくる。
そしてヒット(されては)アウェイする磯巾着。着実に減っていく磯巾着の頭。ただ一つ変わらない磯巾着の騒音。
蛇頭は声を出さなくなったのに、騒音発生器なのは変わらない。
磯巾着が地上に降りてくるたびに雷のような轟音が響き渡る。
一瞬、意識を取り戻したアイギスが、またしても夢の世界に旅立ってしまった。
アイギス、カムバーク!
私たちが騒音被害あっている内に、バロンは早くもヒット&アウェイに飽きたようだ。
猛スピード突っ込んでくる磯巾着へ反撃をすることなく、ジャンプで避ける。
そのまま空中で一回転し、磯巾着の側面に爪を立てつつ足場にしながら更に上空へと飛び上がり、磯巾着の上に飛び乗った。
空に逃げる磯巾着。しかし、敵は既に己の上に陣取っている。
逃げられない磯巾着。先程を上回る速さで減っていく頭部。飛びながらでは上手く避けられない蛇頭たち。
そして上空で花火が散った。
何て汚い花火だ、爆発落ちなんてサイテー、などなど、いろいろと文句を言いたいところだが、爆風は地上にも襲い掛かってきている。
今の私に口を開くだけの余裕はない。
幸い木の周囲は爆心地から離れていたために他よりましだが、木の枝が大きくしなる程度には強い風に襲われている。
なんとか木にはりついて耐えた後、風が止み、土ぼこりが晴れた視界には、焼け焦げた地面が映った。
少し前まで咲いていた草花がない。土の色も先程までと変わっているし、地面が大分でこぼこしている。
というか、バロンは?離れていてもこれだけの威力をほこる爆発に至近距離で巻き込まれたバロンは無事だろうか。
しかも、爆発時に磯巾着とその背に乗ったバロンは上空のかなり高いところにいたはずだ。
あんな高いところから投げ出されてバロンは大丈夫だろうか。
「バローン!バローン!バロンどこ——!?バロン大丈夫!?返事をして——!!」
木から離れて、特に被害の大きそうな地点へと近づく。
爆発の直下と思われる場所は木から遠く離れているが、被害は木の近くにまで及んでいる。
広範囲に影響する爆発だったようだ。威力も相当だったようで、中心地の被害は遠目でも分かり有様である。
でこぼこした地面の山を乗り越えながら、バロンを探す。
黒く変色した土の色はバロンの黒い体毛と似ており、保護色となって見つけづらい。
焦土と化した地面には磯巾着の破片は落ちていない。
爆発により、すべてが目に見えないほど小さな破片となって飛び散ったのか、他のモンスターと同じように光の粒子となって消えたのか。
できれば後者であってほしい。バロン、無事でいて。
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